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「こ、この虫は一体何なのですか?」


「ミランダさん……。私は専門家じゃないので推測しか、お話できないのですが」


「それでも良いわ。あなたの考えを聞かせてちょうだい。この虫は何なの?」


 正体不明の虫について説明を求める黒髪の女官長は、何らかの具体的な回答がないと納得できないのだろう。私は国王陛下の金髪をさらりと耳にかけて、耳の中を見える状態にした。


「私が覗き込んだ時、この虫は耳の奥でへばりついて周囲は赤黒く変色し腫れていました。昨日や今日、へばりついたようには見えません。この虫は国王陛下に一定期間、寄生していた生物なのだと思います」


「一定期間……。寄生?」


「はい。そして、寄生するタイプの生物は宿主の血液などの栄養源を奪って成長します……。さらに言うと、宿主の血液や栄養分を寄生生物がより効率的に摂取する為に、寄生している間は宿主に対して何らかの作用をもたらしている場合があります」


「作用って?」


 たずねられて、何かミランダさんにも分かりやすい事例はないかと考え、ふとこの世界で子供の頃に家族で川遊びした際、川辺で足に小さなヒルがくっついていたという事があったのを思い出した。


「例えば、川などにいる吸血ヒルは人間に取りついて噛みつき血液を吸いますが、人間の方は血を吸われているにも関わらず痛みを感じず自覚症状がない場合が多いですよね?」


「ええ。そういえば確かに……」


「吸血ヒルが人間に噛みついた時、ヒルの唾液から痛みを感じさせない成分を人間に作用させているからこそ、より安全かつ効率的に人間から血液を吸っている訳ですが……。この虫もレオン陛下に取りつき寄生した後、宿主である国王陛下に耳の中にいるという存在を気付かれないように、まず耳の内部を噛んで麻痺症状を起こす成分を注入したのだと思われます」


「麻痺症状は国王陛下に寄生した虫が、安全に養分を吸い出す為に起こしたというの!?」


「状況的にその可能性が高いと思います」


 私がうなずくと横にいるローザがプラチナブロンドの髪を揺らして小首をかしげた。


「でも、おかしいわ……。レオン陛下が麻痺症状で倒れてから、何か原因があるんじゃないかって宮廷医師たちが事細かに陛下の身体を検査したのよ……。こんな大きさの虫が耳の中にいるのを見落とすなんて考えられない」


「たぶん、最初はこんな大きさじゃなかったのよ。誰も気にしないような、微小なサイズだったはず……。国王陛下に寄生し、ずっと養分を吸い出して成長したから今の大きさになったんだと思うわ」


 異様に膨れた虫の身体。大きさの割に不自然なまでに小さい八本の脚。おそらく本来はあの小さい脚に見合ったサイズだったはず。でも、国王陛下が死ぬ寸前まで養分を摂取した為に、パンパンに身体がふくらんだのだろう。おかげで最初に細やかな検査をした医師は見落としたんだろうけど、私は一目で異変に気付くことが出来た。

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