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「唇が紫色……。チアノーゼを起こしてるわ……!」


「チアノーゼ?」


「酸素が……。状況的に呼吸困難が原因で唇が紫色になっているんだと思う。この状態で意識を失ってるのに、無理やり飲み物を飲ませたら死んでしまいかねないわ」


「その通りですよ」


 壁際に控えて黙って私とローザの様子を見ていた黒髪の女官長が発した声に、思わず視線を向けると女官長ミランダさんはゆっくりと天蓋付き寝台の側に来た。


「意識が無い状態で無理に飲料を飲ませることは非常に危険です……。気道が塞がれて即、死に繋がりかねません」


「でも! このまま放っておいたら、レオン陛下は確実に死んでしまうんですよ!?」


 冷静な女官長にローザが美しいプラチナブロンドを乱して涙目で抗議する。それにしても寝室の中を見渡して私は異様さを感じずにはいられなかった。


「なんで……。国王陛下がこんなにも苦しんでいるのに部屋の中に寵妃と女官長だけなんですか? 普通は宮廷医師がつきっきりでついている物なのではないの?」


「国王代理でもある第二王子ライガ殿下は、延命治療の必要は無いと侍医を下がらせました」


「そんな! ウソでしょ!?」


「事実です。道中、馬車の中で言ったでしょう? 医師もサジを投げたと」


「そして、侍医もレオン陛下から麻痺症状に回復の見込みが無いなら延命治療は止めてほしいと言っていたと……。ううっ……!」


 ローザは両手で顔を覆い、こらえ切れない様子で水宝玉色の瞳から涙をこぼし嗚咽を漏らして肩を震わせた。憔悴して打ちひしがれ涙を流す親友の姿を見た私は一瞬の逡巡の後、ベッドサイドチェストの上にケーキを入れた箱とカバンを置き、カバンの中から琥珀色の経口補水液が入ったガラス製のビンを取り出して枕元に置いた。そして寝台の横にある猫脚の椅子に座る。


「どこまで出来るか分からないけど……。経口補水液を試すにしても、まずは呼吸をちゃんと確保しないといけないわ」


「セリナ?」


 ローザと黒髪の女官長が怪訝そうな瞳で見ているがやるしかない。治癒魔法でまずは国王陛下の呼吸状態を回復させる。そこから呼吸が安定して、さらに上手く国王の意識が戻ればローザが試したがっていた経口補水液を陛下に飲ませるという行為も出来るはず。


 そう思いながら、私は天蓋付き寝台の中で臥せっている陛下の咽喉と呼吸器の部分に手をかざして魔力を送り始めた。だが、いつもならゆるやかに魔力が手のひらに集中して温かく治癒されていくというのに、私が手をかざして魔力を送った途端、まるで魔力を吸い取られるかのような今まで味わったことのない感覚に襲われた。


「うっ! これは一体!?」


「ぐぁっ!」


 私が得体の知れない感覚に襲われると同時に、寝台の中にいる金髪の国王陛下も眉間にシワを寄せて苦しみ始めた。

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