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「ミランダさん。国王陛下はどういう状態なんですか?」
「良い状態とはお世辞にも言えないわ……。正直、陛下にケーキや飲み物を持っていった所で召し上がって頂くのは無理だと思っています」
「国王陛下の具合はそんなに悪いのですか?」
「今はローザがついていますが、すでに医者もサジを投げている状況です」
「そんな……」
今朝、夢で見た光景。天蓋付きの寝台に横たわる金髪男性の手を握って、ローザが涙を流すという光景が脳裏に浮かんで動揺が胸に広がっていく。
あれは私の不安な心が見せた夢でしかない筈なのに嫌な予感がどうしても拭えない。言葉を失った私を見やった黒髪の女官長は小さく息を吐いた。
「私がローザに頼まれてケーキと経口補水液を取りに来たのは、ローザが国王陛下の看病を一任されたから。そしてローザにどうしてもと懇願されたからです。仮にあなたの経口補水液とやらが役に立たなかった所で責任を問うつもりはありませんから、そこは安心なさい」
「はい……」
レオン国王が臥せっているとは聞いていたが、容体は想像以上に深刻のようだ。それにしてもダーク王子は「ライガ王子がレオン国王の麻痺症状を起こした」という趣旨のことを言っていたが、レオン国王の食事に毒でも仕込んでいたのだろうか?
「あの……。レオン陛下が倒れる前、特に変わったことは無かったですか? 珍しい物を食べたとか」
「国王陛下が口にする物は基本的に、宮廷料理人が責任を持って作っています。妙な物を口にすることはまず無いはずです」
「そうですか」
ミランダさんにダーク王子がいまわの際、ライガ王子がレオン国王の暗殺を画策していたと言い残したと告げるべきだろうか? しかし、私とミランダさんはさほど親しい間柄でもなく、ミランダさんがライガ王子を支持しているなら、私がライガ王子を侮辱していると糾弾されかねない。
ローザに会う前にミランダさんに不信がられる言動は避けた方が良いだろう。仮にミランダさんに伝えた所で、ダーク王子がそう言ったという証拠は無く、ミランダさんが私から話を聞いたところで、ライガ王子がレオン国王に何をしたのか判明する可能性も低いように思える。
何しろ、ずっと王宮にいたダーク王子ですら想像もつかない方法でライガ王子はレオン国王の命を狙ったのだから……。そんなことを考えながら馬車に揺られている内に白亜の王宮が見えてきた。左右に青い屋根の二つの高い尖塔がそびえ立っているのが特徴的な正面の大きな門を通過し、私は王宮に入った。




