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「いや、私は……」
「分かってるわ」
「え?」
「セリナには、婚約者がいるんですものね。卒業後、家庭に入りたいなら躍起になって魔力を高める必要はないものね」
「……」
親友のローザに対して、回復魔法が使える件がバレてしまったが、私の魔力が高い件については、全てを話してはいない。
ローザのことを信頼していない訳ではないが、やはり人の口に戸は立てられないというし。一生、神殿に軟禁されるか、強制ハーレム入りが決定するかもしれない事案だ。
最初から人に知らせない方が良いに決まっている。しかし、それを伏せているのに、神殿にも王宮にも出入りしたくないという、こちらの事情を説明するのは不可能だ。
婚約者がいるなら無理に魔力を高める必要はないと一人、納得するローザに、どう答えたものかと悩んだ挙げ句、苦笑いであいまいにお茶をにごしておくことにした。自宅に帰ってから、自室で一人ごちる。
「それにしても万が一、魔力の高いことがバレた時に何とか、ごまかせるような言い訳はないかしら」
先日、回復魔法が使えることがローザにバレた件は「回復魔法はかすり傷しか治せないから!」と言い張ってごまかせたけど、同じ手が何度も使えるとは限らない。
「中級以上の魔法を使ったり、連続で魔法を使ったのを万が一、見とがめられてもごまかせるような上手い言い訳は…………」
自室のベッドに倒れ込みながら考えてみるが、まったく思いつかない。
「そんな都合の良い言い訳は無いか。やっぱり第三者に見つからないように人目のある所では極力、魔法を使わないのが一番ね」
そう思っていた翌日。王立学園の魔法の授業で、先生から見慣れない物が配られた。ブルーベリーのような小さな植物の実だ。何なのかさっぱり見当がつかず疑問に感じていると、クラスの皆に植物の実が行き渡ったのを見届けた先生が教壇で説明を始める。
「今、みんなに配ったのは『魔力の実』だ」
「『魔力の実』?」
「この実を知っている者はいるか?」
聞きなれない単語に、私が首をかしげていると先生の問いかけに、一人だけ手を上げる赤髪の女生徒がいた。
「知っていますわ」
「では、フルオライト。述べてみたまえ」
「これは、その名の通り『魔力を増強させる効果がある実』ですわね。もっとも短時間しか効き目はありませんけど……。最近、品種改良の末に作られた物で、あまり市場には出回っていないはずですわ。」