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「馬鹿な……。寵妃ローザは何の咎も無いというのに!」
唖然としながら呟けば、第二王子は軽薄そうな表情で金褐色の髪を揺らしながら肩をすくめた。
「まぁレオン国王に寵愛されて側にはべり、毒を盛るのに最適な位置に丁度あの者がいたのだから仕方ない。それに、寵妃ローザは兄上の御子を懐妊している可能性もある。出産されて後々、正当な王位継承者だと主張されても面倒なのでな。せいぜい寵妃ローザには、次期国王の為に役立ってから死んで貰うとしよう。ダーク、おまえにもな」
「俺が、役立つ?」
意味が分からず当惑していると、ゆっくりと室内を歩いていた第二王子が執務室の扉を開けた。
「近衛兵!」
「な」
そこでようやくライガ兄上の狙いを察知したが、すでに遅かった。
「何用でしょうか? ライガ殿下」
「こ、これは!」
第二王子に呼ばれた近衛兵は執務室の中央で白い宮廷服を着た第三王子が、血だまりの中で絶命しているという惨状を目の当たりにして驚愕の声を上げた。
「ブランシュ殿下!?」
「一体、何が!?」
動揺する近衛兵の前で、ライガ兄上は遺体の傍らに立つ俺を指さした。
「第四王子ダークが乱心し、第三王子ブランシュを切りつけて殺害した!」
「な、何と!」
「嘘だっ! ライガ兄上が突然、背後からブランシュ兄上を切りつけたのだ!」
「え?」
ライガ兄上と第四王子である俺が真逆の主張をした事で、近衛兵らはどちらが正しいのか分からず当惑している。そんな中ライガ兄上が一歩、前に出た。
「ダークに惑わされるな! 国王であるレオン兄上より国璽を預かり、国王代行を務める王位継承権第二位で次期国王である者と下賤な側女から生まれた者、どちらが真実を述べているのかは明白であろう! ダークの顔に附着しているブランシュの返り血が何よりの証拠だ! ただちに第四王子ダークを捕らえよ!」
「は、はいっ!」
「くっ」
このまま捕縛されたら、第三王子殺しの汚名を着せられたまま処刑されるのは間違いないだろう。だが出口のドアは近衛兵が塞いでいるし、控えの間から応援の近衛兵が部屋に続々と入ってきた。
最早、出口から脱出するのは不可能。しかし国王執務室は二階にある。テラスから飛び降りれば、まだ……。そう思いながらテラスに出た瞬間だった。背後から大気を切り裂く音がしたと思った瞬間、腰に焼けつくような痛みを感じた。
「ぐあっ!」
後方を見れば勝ち誇った笑みを浮かべるライガ兄上が、俺に刃物を投げつけて腰に刺したのが分かった。そう把握している間にも、こちらに近衛兵が殺到してくる。迷っている暇は無かった。
腰に突き刺さった刃物を素早く抜けば、それはライガ兄上がブランシュ兄上を殺害するのに使った三日月型の宝剣だった。血に濡れた宝剣を持った俺を捕縛しようとする近衛兵の手を、間一髪で逃れて石造りのテラスから飛び降りた。




