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「せっかく王位に就いても、王位簒奪を狙えるような王位継承権を持つ者がいたのでは、ゆっくり玉座でくつろぐ事も出来ぬからな」


 三日月型の宝剣から滴り落ちる血液を見つめた第二王子は、刀身に残る鮮血を自身の舌で舐め取ると昏く嗤った。


「こんな事をしてただで済むと!?」


「今さら何を……。我らの父、ライオネル前王ですら実の兄を殺して王位を奪ったのだ。寝首を掻かれる方が悪いのだ。このブランシュやレオン兄上のようにな……」


 冷徹な第二王子の何気ない言葉に、俺は弾かれたように顔を上げた。


「レオン兄上の麻痺症状は、やはりライガ兄上が?」


「今頃気付いたか? だが、どうやってレオン兄上に麻痺症状を起こさせたのか下賤なおまえには分かる筈も無いだろうな……。もっとも、自分でもここまで上手くいくとは思っていなかったが……」


 ブランシュ兄上が疑っていた通りだったとは! そう悔やんだが、青ざめた肌色となったブランシュ兄上は大理石の床の上で微塵も動くことなく、大量に失血してすでに事切れている。


 その様子を見たライガ兄上は口元を歪めて嗤いながら、空を切って三日月形の宝剣に付着した血のりを払った後、白いハンカチで自身の手と宝剣に付着した返り血を綺麗に拭い、汚れたハンカチは血だまりの中で絶命しているブランシュ兄上の横に落とした。血の海に落とされたハンカチは第三王子の流した血を吸って、あっという間に真っ赤に染まった。


「王位に就く前にレオン兄王ばかりでなく、王弟も殺害するつもりで呼びだしたのか!?」


「ああその通り……。レオン兄上は実に良い兄であり、王であったが高い魔力にあぐらをかいて隙を見せたのが運の尽き。そしておまえたちも、心優しい兄王の元で無為に過ごしているからこうなったのだ。恨むなら己の愚鈍さを恨むことだな」


「くっ」


「だが血の繋がった実の兄弟を殺害して王位に就いた、非情で残酷な国王などと思われては外交にも差支えよう……。やはり出来れば、陰口を叩かれたくは無いのでな。レオン兄上を殺害したのは寵妃ローザということにしようと考えている」


「寵妃ローザ……?」


 思いもよらない名前が出て来て戸惑う。王立学園時代に同じクラスだった、プラチナブロンドが印象的な男爵家の娘ローザ。


 レオン兄上から寵妃にと望まれた下級貴族の娘が何故、国王暗殺を企む動機があるというのかと俺の顔に出ていたのだろう。ライガ兄上は金褐色の瞳を細めて得意顔になった。


「良いアイデアだと思わないか? 寵妃ローザなら、常に兄上の側にはべっていた……。正妃となる伯爵令嬢フローラに国王陛下の寵愛が移ることを逆恨みした寵妃ローザが毎日、微量の毒を国王陛下に摂取させ続けた為に麻痺症状が進行したという筋書きは実に納得できる物だと思わぬか?」

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