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「女は自分の物だと思っていた男が他の女に目を向けた時。男を恨むのではなく、男の心を奪った相手の女を恨むとよく聞くが、まさにそれではないか?」
「ブランシュ兄上……。伯爵令嬢フローラが、寵姫ローザの命を狙った具体的な根拠があるのですか?」
「あったら国王陛下の寵愛を受けている寵姫を殺害しようとした者を、国王陛下が野放しにしたままな訳ないだろう」
なるほど。これも全て推測かと呆れる一方、伯爵令嬢フローラは身分の高い者に対しては友好的な態度だが、自身の魔力の高さも相まって気位が高く、下級貴族や魔力の低い者を下に見ている節があったりしたのを俺は知っている。
国王陛下の婚約者になったにも関わらず、肝心のレオン国王は下級貴族で魔力も低かったローザを寵妃にして、伯爵令嬢フローラとは目も合わさず、婚約破棄する意向だったならプライドの高い伯爵令嬢フローラとしては寵妃に怒りの矛先を向ける可能性は非常に高いように思える。
「レオン兄上も寵妃ローザを狙ったのが誰か感づいてはいるけれど、明確な証拠が無く手をこまねいていたという所ででしょうか?」
「ああ。そんな所だろう……。もっとも伯爵令嬢フローラの気性は王立学園時代に同じクラスだったというお前の方が理解しているのではないか?」
「確かに、伯爵令嬢の性格はおおよそ知っているつもりですが……」
「兄上の婚約者が伯爵令嬢フローラに決定する前、おまえがフルオライト伯爵令嬢の気性について言及していれば、あの伯爵令嬢が国王陛下の婚約者に選ばれることは無かったかも知れないな」
「事前に聞かれれば答えましたが、伯爵令嬢フローラを国王陛下の婚約者に推したという宰相やリオネーラ王太后から一度も助言を聞かせてくれと尋ねられたことが無かったですからね……。大方、王子とは言え俺のような身分が低い母から生まれた者の言葉は聞くに値しないと判断されたのでしょう」
俺の母親は後宮にいた側女で身分が低い。本来なら側女でも国王から目をかけられれば寵妃となり、正妃に準じた立場になれるはずだが前王ライオネルはある時、後宮にいた側女に気まぐれで一晩だけ手を付けた。
その後は王の相手をした側女について特段、気にかけることもなく過ごしていたが、ライオネル王が気まぐれで一度だけ手を付けた側女は懐妊し俺を出産した。
王子が誕生したことで自動的に俺の母は側女から寵妃に昇格するはずだったが産後、間もなく死亡したため俺の母は事実上、側女という身分で死んだも同然で国王や宰相、リオネーラ王太后などが俺の事に関しては他の王子より、明らかに下に見ているのを幼少時からひしひしと感じていた。




