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 王宮の一角、湖の上に建てられた白亜の水上離宮。水の上に建てられているだけあって夏場の避暑としては良い離宮だが、間もなく冬が訪れようとしているこの時季は少々、肌寒い。


 開けていた窓を閉めようと窓際に立つと、栗毛の馬に騎乗した兵士が水上離宮にかけられている唯一の橋を渡って来るのが見えた。これは、もしやと思っているとドアがノックされ召使いが姿を現した。


「ダーク殿下……。レオン陛下の容態が急変したそうで国王代理であるライガ殿下が至急、今後のことについて話したいそうです。つきましては国王執務室に来て頂きたいと」


「分かった。すぐ参る」


 手早く支度をし、黒いマントを身に着けた俺は黒馬に乗り水上離宮を出て王宮に到着する。王宮の入り口には白い宮廷服を着た金髪の第三王子が腕を組んで、大理石の柱に寄りかかりながら佇んでいた。


「やっと来たか。ダーク」


「ブランシュ兄上……。レオン兄上の容態が急変したと聞きましたが」


「ああ。先日のパーティではあれほど壮健なご様子だったレオン兄上が、まさかこのような事になるとはな……」


 白いマントを翻してブーツの靴音を響かせながら廊下を歩き、苦々しい表情を浮かべる白面の第三王子が脆弱そうな外見と裏腹に優れた洞察力や推理力を持っていることを知っている為、尋ねずにはいられない。


「ブランシュ兄上は今回の件、どのように考えているのですか?」


「単純に考えてレオン国王が崩御すれば、王位継承順位が第二位のライガ王子が次期国王になる。……つまり今、レオン国王が死んで最も利があるのはライガ兄上だ」


「しかし……。レオン兄上の病状はライガ兄上と直接、関係ないように思えますが?」


 突然、謎の麻痺症状で倒れ病状は徐々に進行していたという。国王陛下の食事に毒などが混入しないように細心の注意が払われているはずだが、それでも隙をついて一度は毒物を口にしたのかも知れない。


 しかし宮廷医師が懸命に手を尽くし、食事にもこれまで以上に気を使われているにも関わらず麻痺症状がじわじわと進行し続けると言うのは外部から継続的に毒が盛られていれば説明がつくが、これまで以上に警備や監視の目が厳しくなった国王陛下に毒を盛り続けるというのは現実的には不可能だろう。


「ああ。先日、行われたパーティの最中か、パーティ直後であればライガ兄上が疑われただろうが……。レオン兄上に麻痺症状が現れたのはパーティから数日が経過してから……。ライガ兄上、自らの仕業と見るには弱すぎる」

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