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「うっ……!」
「陛下?」
「くっ! ハァハァ……」
寝台の中で小康状態のまま横臥していた金髪の国王陛下は突如うめき声を上げながら苦しそうに呼吸を乱し、額からは脂汗がしたたり落ちてきた。
「レオン陛下!」
私は手にした布で陛下の汗をぬぐうが、苦悶の表情を浮かべ激しく胸を上下させる国王陛下の呼吸が良くなる気配は一切無い。
「ローザ……。医師が処方して下さったシロップなら、国王陛下の苦しみを軽減して差し上げられるわ」
「シロップ」
黒髪の女官長ミランダがシロップを使うように言うのはもっとも……。私はベッドサイドのキャビネットに置かれた透明ガラスビンに入ったシロップに手を伸ばし、震える右手で持ったが耐えきれず首を横に振って元に戻した。
「やっぱりダメです! 普通の人間が口にしてはいけないような依存性がある物を、自らの手でレオン陛下の口に入れるなんて!」
「でも、少量ならば普通に使われている物だと医師も言っていたわ。そのシロップを使わないと陛下の苦しみが深くなるばかりなのよ?」
「わかってます……。わかってます! でも!」
私は震える右手を左手で押さえ、唇を噛みしめていたが堪えきれず、涙が次から次へと零れ落ちた。俯いて肩を震わせていると黒髪の女官長はベッドサイドのキャビネットに置かれているシロップに手を伸ばした。
「あなたが無理なら、私がやります」
「女官長!」
冷徹な黒い瞳でガラスビンを開けようとする女官長が信じられず、私は思わず責める様な声を上げてしまった。すると黒髪の女官長ミランダはわずかに瞳を潤ませながら辛そうに眉根を寄せた。
「もう、これしか手段が無いのです。あなたは依存症や中毒症状を懸念しているのでしょうけど、呼吸障害を起こしている以上は、医師も長くは持たないと言っていたでしょう? この状況で依存症について心配しても詮無きことです」
「それは、そうかも知れませんが……」
「今の国王陛下の状況をよくご覧なさい。このシロップで苦痛を和らげる以外に最早、私たちに出来る事はないでしょう?」
寝台の中で苦しそうに呼吸を荒げ、金髪を乱すレオン陛下の苦しそうな表情。その横顔を見ていると、これまでの様々な事が思い出される。そして、まだ試していないことがある事実に気がつき私は目を見開いた。
「いいえ」
「ローザ?」
「女官長……。お願いがあります」
私が試したいことを告げると、黒髪の女官長は明らかに戸惑いの表情を浮かべた。




