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「あなたが仮眠を取ってくれないと、いざという時に頼れないわ」
「じゃあ、ミランダ様に声をかけてから休ませて頂くわ……。私が仮眠を取ってる間の侍女を手配して下さる筈だから」
「うん。そうね」
目の下にクマが出来てしまった茶髪の侍女ジョアンナが寝室から出て行って、しばらくしてから今度は黒髪の女官長ミランダがやってきた。
「ローザ……。ジョアンナから、あなたが寝ていないと聞いたわ。ここは私が代わるから、あなたも少し眠って」
「いいえ。私は大丈夫です」
「無理をしては……」
「大丈夫です。無理などしていません」
私が陛下の側を離れないことを悟った黒髪の女官長は、それ以降は寝台に横たわり浅い呼吸を繰り返すレオン陛下の汗をぬぐう私の姿を見守っていた。
寝室内に朝の強い日差しが入り、眩しい陽光に私が目を細めた時だった。大きな靴音が響き、視線を向けると金褐色の髪を揺らしながら第二王子ライガ殿下が現れた。
「レオン兄上の容態はどうだ?」
「小康状態が続いております。……しかし、いつまた急変するか」
侍医が眉根を寄せながら告げるとライガ殿下は自身の両腕を組んだ。
「このまま手を尽くして、快癒する見込みは?」
「それは……」
「はっきりと申せ」
「レオン陛下はすでに両手両足に加え、呼吸器にまで重い麻痺症状の影響が出ております……。麻痺症状の回復が一切、見られない以上は快癒の見込みは無いかと……」
白髭の老医師が苦渋の表情で語ると、第二王子は目を閉じて鷹揚に頷いた。
「そうか……。ではもう、そなたや他の宮廷医師が診る必要は無い」
「は?」
「何をおっしゃるのですかライガ殿下!?」
ライガ殿下の言葉に老医師は目を丸くする。私も第二王子の言葉に思わず語気を荒げた。しかし、ライガ殿下は金褐色の瞳で寝台に横たわるレオン陛下を一瞥すると大きな溜息を吐いた。
「レオン兄上は両手両足に加え最早、呼吸をするのも困難な状態なのだ……。このまま医師が治療を続けても快癒の見込みが無く、無駄に兄上の苦しみを長引かせるだけなら医師がついている必要は無い」
「そんな! 病床の国王陛下から医師を外すなど、聞いたことがありません!」
「寵妃様。ライガ殿下、実は……」
「む? なんだ、申してみよ」
何やら言いよどむ老医師に第二王子が促せば、白髭の老医師は頭を垂れた。
「はい。レオン陛下は容態が急変する前、私に『回復の見込みが無いなら、延命治療をする必要は無い』と告げられました」
「嘘!」




