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セリナに経口補水液のレシピを教えてもらった時に、自分で作った経口補水液は長期間の保存が出来る物では無いので、作ってから一日以内に飲むようにと言われている。
料理長さんに用意して頂いた経口補水液は今日中に消費して、明日は新しい物を用意しなくてはならない。次に経口補水液を作る時は自分で作れば良い。
そんなことを考えながら国王陛下の部屋に入った私はいったん、ジョアンナに経口補水液を預けて国王の居室で待ってもらいながら一人、陛下の寝室へ向かった。
「陛下、失礼いたします」
軽く寝室の扉をノックしてから中に入れば、寝台に横たわっているレオン陛下は枕元に居る白髭の侍医となにやら話をしていたが、私の姿を見ると侍医に下がるように告げた。高齢の侍医は恭しく一礼して静かに国王の寝室を退出した。
「ローザ……」
「レオン陛下。先ほどは取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
まずは自分の非を改めて詫び頭を垂れると、金髪の国王陛下は目を閉じて首を横に振った。
「いや、そなたに何も尋ねず事を進めようとしたことに関してはこちらにも非があったのだから、その件に関してそなたがこれ以上、謝罪する必要は無い」
「陛下」
「ただ。我が金獅子国のハーレムに居る寵妃や側女は……。王が代替わりした時、次に王位を継いだ新王の物になる。このまま余が死ねば、そなたは第二王子ライガのハーレムに加わる事となるのだ」
「それは……」
「そればかりでは無い。もしライガが余のように急な病で倒れれば、今度は第三王子ブランシュが新王となる。そなたはブランシュのハーレムで過ごす事になるだろう……。そして、身体が弱く子供が作れないブランシュが早逝した時には第四王子ダークが新王となることも考えられる」
「いくらなんでも、そのような……」
次から次へと告げられる予想が何の澱みも無く語られると言う事は、以前からレオン陛下がそういう事態を懸念していたという事なのだろう。
そこまで考えていなかった私は思わず言葉に詰まったが、金髪の国王陛下は何の感情も読み取れないような瞳で私を見つめた。
「つい先日まで余も、自分が謎の奇病に犯されるなど思ってもみなかった。この世に絶対は無いのだ」
「レオン陛下」
「このまま、そなたが寵妃で居続けて仮に新王となったライガの子供を産んだ場合でも、すぐに新しい王に代替わりすれば、その新王の心持ち如何でローザの子供が殺されることも考えられるのだ」
「子供が……」




