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「確か、最初は味覚、次に嗅覚、その後は痛覚や聴覚、視覚が失われていく呪いにかかったと言っていたような……」
「そんな酷い呪いがあるの!?」
呪いと言うからには悲惨な状況に陥っていたのだろうと予想は出来ていたけど、想像以上に絶望的な呪いで愕然とした。
「うーん。まぁ、その本人がそう言ってたんだけど……」
「その恐ろしい呪いにかかった人はどうなってしまったの?」
やはり亡くなってしまったのだろうかと恐る恐る尋ねると、セリナはあっけらかんとした顔をした。
「ああ、治ったわよ」
「え?」
「呪いにかかってた人は突然、完治したの。人っていうか、正確には狼の獣人なんだけどね」
セリナは事も無げに言ったけれど、そんな絶望的な呪いがあっさり解けるなんて信じられない。
「味覚、嗅覚、痛覚、聴覚、視覚が失われたのに回復したの?」
「うん、そうよ。不思議よねぇ……」
アゴに指を当てながらセリナは小首を傾げている。しかし突然、完治したと言うからには何か、きっかけがあったに違いない。
「そんな酷い呪いにかかったのに、どうやって完治したの?」
「いや、特別なことはしてないのよ。ただ……」
「ただ?」
「その人がお店の前で行き倒れていた時に、明らかに脱水症状を起こしていたように見えたから経口補水液を作って飲ませただけなんだけど……」
「経口補水液?」
意味が分からず眉をひそめていると、セリナは少し笑った。
「以前、ローザが体調を崩した時にミランダさんって言う黒髪の女官長さんにケーキと一緒に渡したから、ローザも飲んだ事あるんじゃない?」
私が体調を崩した時……。そういえば突然、後宮に入れられ寵妃になって間もない時にふさぎ込んで体調を崩してしまった時期があった。確かにあの時、女官長からケーキとセリナが作ったという琥珀色の飲料を渡されて飲んだ覚えがある。
「ああ、そういえば……。ハチミツの入った飲料?」
「そう! あれが経口補水液よ!」
笑顔で大きく頷いたセリナに私は身を乗り出す。
「あれを陛下に飲んで頂いたら、陛下の麻痺症状も快方に向かうかしら?」
「いや……。経口補水液って、あくまでも脱水症状を起こしている人向けの飲料だから……。万能薬ではないのよ?」
経口補水液を飲ませても、国王陛下が麻痺症状から回復するとは思えない様子のセリナは明らかに当惑している。
「でも、宮廷医師にも特効薬は無いって言われてるの……。少しでも可能性があるなら試してみたいわ」
「ローザ……」




