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私は国王陛下が臥せった事、陛下の麻痺症状が深刻な事をセリナに打ち明けた。
「セリナ……。私の話を聞いてどう思う?」
「え、どう思うって?」
「前に私が後宮で襲われた時、セリナは私の話を聞いて犯人が誰なのかすぐに目星をつけたじゃない? 陛下の話を聞いて、麻痺症状の原因とか分からない?」
「ちょ、ちょっと待ってローザ……。前の時はあくまで一般論を話しただけよ?」
「一般論?」
「ローザが襲われた現場は、後宮にある寵妃の部屋だったでしょう?」
「ええ」
「普通に考えて後宮と言うのは警備が厳しいし、部外者の……。まして男性が入れる場所じゃない。そしてローザが襲われた時間帯に怪しい人物を見かけたという証言も無かったから。ローザを襲った犯人が女性で、後宮に住んでいる女性と言うのは簡単に推測できた事なのよ」
「でもフローラと侍女が怪しいって……」
私が食い下がるとセリナは困惑気味な表情を浮かべた。
「それも動機から、その可能性が高いんじゃないかって推察しただけよ……。あれが真相だと断定することは出来ないわ」
「じゃあ、レオン陛下の麻痺症状がどうやったら治るか分からない?」
「さすがにそれはシロウトが伝聞で判断できることじゃないわよ……。まして、国王陛下に仕えている宮廷医師や識者が束になって診察したり、文献を調べても分からないと言っているのでしょう?」
「ええ……」
もしかしたらセリナに話せば何か良いアドバイスが貰えるのではないかと一縷の望みを持っていたけれど、セリナにも分からないと言われて私は肩を落とした。
「それにしても、全身にじわじわと麻痺が広がっていく症状なんて、まるで呪いのようね」
「呪い……」
本当にセリナの言う通り、医師でも原因が掴めず治療方法が分からない上、治癒術でも太刀打ちできないなんて、まるで呪いのようだと思う。
レオン陛下の身体を少しづつ蝕んで死に至らしめる恐ろしい呪い。そして、私はその呪いに為す術が無い。そんなことを考えているとセリナが形の良い唇に指を当てながら、何か思いついたように少し顔を上げた。
「そういえば知り合いで『呪いにかかった』って言ってた人がいたわねぇ……」
「え? どんな呪いなの?」
「うーん。国王陛下の症状とは全然違うわよ?」
「それでも教えて! 何かの参考になるかも知れないし!」
藁にも縋るような気持ちで尋ねるとセリナは腕を組んで、やや眉間にシワを寄せながら記憶をたどり出した。




