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 一礼して私は国王陛下の寝室を退出し廊下に出た。いくら嫌だと言っても国王陛下が決定されたことに対して、私ごときが意見することは許されないだろう。


 しかし、そうだと頭では分かっていても感情面では降嫁するという事実をを受け入れることが出来ず、足早で歩きながら手の甲で何度、目元をぬぐっても溢れて来る涙は止まらなかった。


「ローザ!」


「……女官長」


 後方から呼び止められ、振り向けばそこには黒髪の女官長ミランダがいた。


「どうしたの? そんなにも目を真っ赤にして涙を流して?」


「いえ、これは……。それよりも、私に何かご用ですか?」


 慌てて、涙を拭いて尋ねれば黒髪の女官長はハッとした様子で少し目を見開いた。


「ああ、そうよ。あなたの友人だというケーキ店の娘が、ケーキを持って第一の庭で待っているそうだけど、約束があったのではないの?」


「セリナが? あ、そういえば……。第一の庭でセリナと会う約束が……」


「やっぱりそうだったのね」


 先ほど私の降嫁について話を進められていたことを知って、セリナと会わなければいけないことを完全に失念していた。そのせいで多忙な女官長を煩わせてしまったことについて申し訳なく思い、頭を下げて謝罪した。


「ご足労をおかけしてしまってすいません。すぐに第一の庭へ向かいます」


「でも顔色が悪いわ……。体調が悪くて会える状態じゃないなら、あなたは部屋で休んでいなさい。私がケーキを受け取って後で部屋に届けるわよ?」


「いえ、行きます」


「ローザ……。大丈夫なの?」


「大丈夫です。私、セリナに会います」


 こうして私は長い回廊を歩き、第一の庭が見える長い通路に設置されているソファに腰かけているセリナと対面した。


「セリナ。ごめんなさい、待たせてしまって」


「ローザ! 会えて良かっ……。え!? 何があったの? 目が真っ赤じゃないの!?」


「その事についても話をするわ。ここでは何だから個室に入りましょう」


「うん……」


 個室に入って椅子に座ると、セリナが心配そうに私の顔をのぞき込んできた。


「ローザ、薄っすらと目の下にクマが出来てるわよ? あんまり眠ってないんじゃないの?」


「そう、かも知れないわね」


 正直なところ、レオン陛下に麻痺症状が出て病状が悪化する中、ゆっくり熟睡できる状況ではなくなっていた。多少、目の下にクマが出来ても仕方ない。


「あ、クマと言えばジンジャー&ナッツのクッキーを新商品として作ったの! このケーキが入ってる箱の中にも少し、入れておいたわ! これは目の下のクマにも改善効果があると思うから……」


「セリナ……。まずは私の話を聞いて」


「うん?」

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