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 降嫁と言えば、私が寵妃になって初めての夜に女官長から『ここだけの話』として聞いた言葉。基本的に後宮の寵妃や側女は国王の所有物と言う扱いで、勝手に後宮の外へ出る事は許されない。


 でも国王陛下の寵愛が薄れた場合、王の御子を産んでいない寵妃については降嫁と言って、国王の臣下へ嫁ぐことで後宮から出る事が許される。


 まさか、このタイミングでレオン陛下が私を降嫁させようと考えているなんて夢にも思っていなかった。ショックのあまり目の前が真っ暗になり、足元がフラついたが寝室の中にいる王弟ライガ殿下やレオン陛下は、私の胸中など知る由もなく話を進めている。



「分かりました。宰相や重臣と話して、寵妃ローザに良い降嫁先を見繕っておきましょう」


「うむ……。頼む」


「嫌です!」


 私は思わず寝室の扉を開けて声を上げていた。


「ローザ?」


「レオン陛下! 何故、そのような事をおっしゃるのですか!?」


 寝台の上で上半身を起こしている陛下の元に駆け寄って強く問いかければ、金髪の国王陛下は何とも言いがたい表情で貌に陰りを落とす。


「余はもう長くない。そなたの幸せを思ってこそ……」


「何故、降嫁するのが私の幸せだと思うのですか!? 勝手に寵妃にしたと言うなら何故、私が勝手に陛下のお側でお仕えすることを許して頂けないのですか!?」


「余は両手両足の自由もままならぬ……。これ以上、側にいてもそなたに苦労をかけるばかりだ」


「苦労などとは思いません! それに、宮廷医師は陛下の麻痺症状の原因として、疲労も要因ではないかと述べておられました」


「そんなことは……」


「いいえ! 疲労が原因なら陛下が臥せる前に、私が三日も意識を失っていた間、陛下がお側で私を看て下さっていたことも要因ではありませんか!? つまり、陛下が臥せっている原因の一つを作ってしまったのは私です!」


「ローザ、このような奇病がそなたの所為であるはずが無い……。そなたは何も気に病むことは無い。このような先の短い者に時間を費やす必要は無い」


「陛下に残された時間が僅かだと言うならば、せめて最後までお側にいさせて下さい!」


 私とレオン陛下の様子を見守っていた侍医や宰相、侍従は唖然としている。しかし、私を部屋から下がらせて勝手に降嫁を決定しようとしたは到底、許容できることではなかった。悔しさと哀しさから私の両目から次々と熱い涙が零れ落ちた。


「ローザ……」


「申し訳ございません……。国王陛下に対して口が過ぎました。失礼いたします」

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