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「初めてだろうが二番目だろうがそんなことは、どうでも良いことです!」


「ヒッ!」


 金髪金目の王太后は手に持っていた紫色の扇を力任せにオーク材のテーブルに叩きつける。ピシャリという大きな音に宮廷医師たちは驚き、目をむいた。


「今、分かっている範囲でレオンの麻痺症状は何が原因なのか述べなさい!」


「それは……。まず、疲労が考えられます。疲労が蓄積いたしますと身体が弱くなりますので……」


 王太后の剣幕に宮廷医師たちは目元をヒクヒクと痙攣させながら白いハンカチでひたいの汗をぬぐいつつ答えれば、リオネーラ王太后は剣呑な雰囲気で金目を光らせた。


「では養生すれば回復すると?」


「断言は出来ませぬが、他にこれと言った特効薬や治療法というのがございませんゆえに……」


「もうよい! そなたたち、レオンにはしっかりと食事を取らせなさい。良いですね!?」


「は、はい」


 紫色のドレスを翻し、靴音を鳴らしながら国王陛下の居室から出て行く王太后様の後姿に医師たちは頭を垂れる。その様子を見送った後、私は軽くノックして国王陛下の寝室へと入った。入室すると寝台の中で横たわっていたレオン陛下は横目で私を見た。


「ローザか……」


「はい」


 微笑すると金髪の国王陛下も、身体を横にしたまま金色の瞳を細め失笑した。


「母上にも困ったものだな。臣下を怒鳴ってどうにかなる物でもなかろうに。自分の思い通りにいかぬからと言って、そのたびに癇癪を起していては人心は離れよう」


「聞いてらしたのですね……」


「あのように大きな声で怒鳴り散らせば、扉を隔てていても聞こえてしまう」


 金髪の国王陛下は苦笑したが、窓から差し込む夕日の光が当たったレオン陛下の横顔は陰影があまりにも濃い。その笑顔に以前のような活力は感じられず、明らかに生彩を欠いているように感じられるのが切なかった。


「……お水を飲まれますか?」


「ああ」


「上半身を起こしますね」


「うむ」


 レオン陛下の上半身を起こして、水差しの水をクリスタルガラスのグラスに注いでから、まだ自由がきく陛下の左手にグラスを持たせた。しかし直後、クリスタルグラスは陛下の手をすり抜けた。


 一瞬の間にグラスから零れ落ちた水は寝台にかけてあった白絹のシーツをぬらし、そのまま転がり落ちたクリスタルグラスは高い音を立てながら床の上で砕け散った。


「あ……。申し訳ございません! 私、手がすべってしまって!」


「ローザ」


 急いで布を手に取り、濡れた白絹のシーツから水分を拭う。

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