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侍従が発した号令の元、指示された近衛兵がすぐさま国王陛下の寝室から出て行き、やがて兵によって引っ立てられた数名の料理人と召使いが寝台で上半身を起こした国王陛下の前に突き出された。
寝台の上で料理人たちを冷たい目で一瞥した後、金髪の国王陛下は側にいる侍従に目くばせした。訳も分からぬまま、厨房から国王陛下の寝室に連行されたのだろう、料理長たちは完全に動揺している。
「こ、国王陛下……。これはいったい?」
「貴様が料理長だな?」
長髪の侍従が問いかければ、でっぷりと太った黒髭の料理人は恐縮しながら頭を垂れる。
「はい。そうでございます」
「今朝のスープを作ったのは貴様か?」
「もちろん私めでございます。国王陛下が飲まれるスープは料理長である、私め自らが前日から野菜と肉を長時間、煮込みながら鍋に浮き上がってくるアクをこまめに取り除いて……」
「料理の御託は結構だ」
「へ? は、はい」
長々と調理法について語る黒髭の料理長の言葉を忌々しそうに遮った侍従は切れ長の瞳で、眼前の料理長を見据えた。
「貴様が作ったスープを飲んだ直後、国王陛下の右手に麻痺の症状が出た」
「えっ!」
「食事の後、歩こうとした陛下は右脚にも麻痺の症状が出た」
「そんな!」
黒髭の料理長は驚愕し、顔色を変えた。その様子を冷淡に見つめる侍従は料理長に対して疑惑の目を向けている。
「料理長。貴様、何か妙な薬物を陛下の食事に混入させたのではあるまいな?」
「そ、そんなっ! めっそうもございません! いつも通り、仕入れた野菜や肉しか入れておりません! 厳選された材料のみを使用して作っております! 国王陛下にお出しする料理には、特に細心の注意を払っておりますので薬物など、とんでもございませんっ!」
「嘘を申せば、罪が重くなるばかりだぞ?」
眼光鋭い侍従にでっぷりとした料理長は震えあがった後、キッと歯を食いしばった。
「私めは料理ひとすじで、宮廷料理人として陛下に料理を食べて頂けるのを至上の喜び! 栄誉だと思いながら日々、仕事に励んでおりました! 陛下の食事に害のあるような物を混入させるなど、ありえませぬっ!」
「よく回る舌だな。虚偽だと判明すれば、その舌を切り取ることになるぞ?」
「信じて下さい! 料理人が手ずから作った料理に自ら、毒物を入れるなどありえませぬ! 宮廷料理人の誇りにかけて誓います!」
大量の汗をかきながら低頭低身で必死に弁明する料理長が嘘を言っているとは、とても思えない。侍従もそう思ったのだろう料理長以外の者に視線を向けた。




