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親友に気遣われながらケーキの入った箱を受け取り、部屋に戻ろうと歩いていると通路の一角で侍女達が何やら話し込んでいた。
「今、女王の部屋に滞在してる寵姫って、元侍女なんでしょう?」
「ええ。ローザっていう男爵家の娘で、なんでも侍女見習いをしていた時にレオン様に見初められたそうよ。確か魔力も高くなかった筈だけど、今は女王の部屋で悠々自適に過ごしている寵妃なのだから大した出世ね」
何と、私についての噂話だった。立ち聞きなど良くないと思いつつも、話の内容が自分のことだと知れば気になってしまう。私は思わず物陰から聞き耳を立てた。
「レオン陛下って、婚約者の伯爵令嬢が後宮に入った筈よね?」
「この間、パーティにも出席してたわよ。赤い髪のフローラという伯爵令嬢よね」
「確か、魔力の高さから宰相と王太后リオネーラ様の推薦で国王陛下の婚約者になったとか……」
「やっぱり、魔力が高いと縁談で有利なのねぇ」
侍女の一人が感心したように呟くと、もう一人の侍女が身を乗り出す。
「でも、当の国王陛下は婚約者に目もくれず寵姫に夢中で女王の部屋に滞在させてるって、ちょっとした醜聞じゃない?」
「後宮にいる寵姫の元に通うならまだしも、身分の低い寵姫を女王の部屋に滞在させるっていうのは聞いたことが無いですものね……。しかも一日や二日ならまだしも、何日もっていうのは……」
それは私も当初から気になっていた点だった。寵姫が女王の部屋に滞在するなんて分不相応にも程があるだろう。やはり、第三者からもそう思われていたのかと改めて胸が痛くなった。そんな私の思いとは裏腹に侍女たちの話は盛り上がっている。
「私も国王陛下に見初められたいわ~」
「正妃は無理だとしても、寵姫になって悠々自適に暮らしたいわよね!」
「そうかしら?」
色めき立つ侍女たちの中で一人、冷静な声の侍女が疑問を呈した。
「あなたは違うの?」
「だって、どうせ今だけだと思うわ」
「今だけ?」
意味が分からないといった様子で小首をかしげる侍女たちに、冷静な声の侍女はうなづいた。
「先の王、ライオネル陛下だって、正妃や寵妃との間に王子を何人も作ってるけど全員、母親が違うもの」
「そういえばレオン陛下の王弟は第二王子も、第三王子もすべて母親が違うわね……」
「ええ。今の寵姫に飽きたら次は婚姻した正妃か、新しい寵姫を所望されるに決まっているわ」
断言する侍女の言葉に、他の侍女たちも目を見合わせてまゆをしかめる。
「先代の国王陛下だけじゃなく、歴代の王だってそうだったものね」




