295
「そして私が寵妃の部屋で襲われた時に使用された青銅の燭台。念の為に凶器となった燭台を見せてもらったけれど。あれは元々、寵妃の部屋に置かれていた物だから凶器の所有者から犯人を特定することは出来ないのよね……」
「こういう時、物語なら凶器が犯人につながる手がかりになるのに!」
ジョアンナが口を尖らせながら腰に手を当てた。私は薔薇の絵付けが施された白磁器のティーカップを再び傾け、やはり酸味が強い花茶を味わった後、肩を落とす。
「世の中、そう都合よくはいかないということね」
「せめて燭台に犯人の手形でもついていれば、犯人の身長なり目星がつきそうな物だけど、そういうのも無いものねぇ」
「ええ。燭台には私の後頭部を殴打した時に付着したと思われる血痕がこびりついているのみで、犯人の手掛かりは無かったわ」
「これじゃあ皆目、犯人の見当がつかないわ」
「そうなのよね……」
私が襲われた際、身につけていたブルーサファイアの首飾りが奪われていたのだから、それを犯人が所持していたと考えるのが自然だけれど、伯爵令嬢フローラが「首飾りは廊下で拾った」と言って侍女も同じように答えているなら、これ以上は追及しようがない。
国王陛下や女官長ミランダの指示の元、後宮内で怪しい者はいなかったか捜査が行われているそうだけど、有力情報が出てこない以上、進展は望めないだろう。完全に手詰まりとなった感がある捜査。それを私は「ここだけの話」として、ケーキを届けに来てくれた親友のセリナに打ち明けた。
誰にも聞かれないように二人きりで第一の庭の横にある個室で声を潜めてこれまでの経緯を話すと、セリナは神妙な面持ちで私を見つめた。
「ローザ。大変だったのねぇ……。って言うか、よく死ななかったわね?」
「ええ、陛下のおかげで命拾いしたわ。でも私を襲ったのが誰か分からなくて……。男なのか女なのか。それすら分からないのよ」
内部の者には分からない事も、第三者の目線で見れば新たな見方が出来るかも知れないと僅かな可能性を求めて話すとセリナは唇に指を当てて思案した。
「うーん。犯行現場が後宮で誰も怪しい者を見ていないってことは、女性が犯人の可能性が高いと思うわ」
「女性……」
「後、ローザは後頭部を青銅の燭台で殴られた上、首を布で絞められたんでしょう?」
「ええ、あの時はもう駄目かと思ったわ」
私の言葉を受けてセリナは眉根を寄せ、腕を組んで考え込んだ。
「屈強な男の人が不意打ちで女性を背後から鈍器で殴った上、本気で首を絞めたなら絞殺されていた可能性が高いと思うのよねぇ」
「確かに……」




