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いや、何の証拠も無い以上は本当にフローラが偶然、廊下に落ちていた首飾りを拾ったという可能性だってある。もし、フローラがやったのだとしたら証拠となるブルーサファイアの首飾りを所持してるなんて、あまりにも犯行が杜撰すぎる。そんなことを思考していると金髪の国王陛下は腕を組み、溜息を吐いた。
「そして、余の母上もフルオライト伯爵令嬢の言い分を支持している。まぁ、支持というよりは国王の婚約者が寵妃を害して所持品を窃盗したなど、考えたくも無いと言っていたのだが」
「リオネーラ王太后様が……」
後宮では助け合い、国王陛下の御心を煩わせるようなことはあってはならないと言っていた王太后様にしてみれば、国王陛下の婚約者がこのような暴挙に及ぶなど信じられないし考えたくもないだろう。私は無理もないと思った。
「そなたが犯人の顔を見たのであれば、真相が分かるかと思ったのだが……」
「申し訳ありません……。お役に立てなくて」
「いや。犯人が分からなかったとしても、そなたに非がある訳ではない。しかし、あのような事が起こった以上、そなたが後宮に住まうのは安全ではない。当面ここで過ごしてくれ」
目覚めた時から天蓋付きの寝台、クリスタルガラスのシャンデリア、最高級の調度品と異様に豪華な部屋だと思っていたけどレオン陛下から当面、ここで過ごすようにと言われたからには尋ねずにはいられない。
「あの、ここは一体?」
「王妃の部屋だ」
「えっ!?」
金髪の国王陛下は、とても良い笑顔で答えて下さったが私は愕然とした。
「正確には、寝台があるこの部屋は王妃の寝室だが……。当面ここで過ごすのだから、隣の部屋にある王妃の居室も、もちろん自由に使って構わぬ」
「自由にって、そんな……」
「国王の部屋の隣にある、王妃の部屋なら常に近衛兵の目も光っているし警備面も万全だ!」
レオン陛下が素晴らしい提案だと言わんばかりに非常に良い笑顔を見せて下さっているけれど、これはおいそれと了承できる内容ではない。
「私のような者が、王妃様の部屋を使うなんて恐れ多いです!」
「いや。後宮で命を狙われ、犯人が特定できない以上、そなたを再び後宮へ戻すことは出来ない」
真顔で首を横に振る陛下を見て、確かにあんなことがあった後宮に戻るのは私だって怖いし、陛下が私の身を案じて下さるお気持ちはありがたいと思う。しかし、いくらなんでも王妃の部屋は常識的に考えて私ごときが滞在して良い場所では無いはず……。
「では、ここ以外の部屋に!」
「警備面を考えれば、この部屋が一番安全なのだ。分かってくれ」
「陛下……」
「せめて、そなたの命を狙った犯人が見つかるまでは、ここで過ごして欲しい」




