281
「殿下は白虎王国に滞在したと伺いましたわ」
「その通りです。母が白虎王国の王族だった関係で、暫し滞在しておりました」
「私、白虎王国に行ったことが無いので是非、お話を聞きたいですわ!」
フローラが興味津々と言った様子で笑顔で尋ねれば、第二王子は自身のアゴを触り少し考え込んだ。
「そうですな。何から話すとしましょうか……。そういえば白虎王国の西から海へ出ると、孤島には大陸にはいない生き物が多くおりました」
「まぁ! どんな生き物がいたのですか!?」
第二王子ライガ殿下と伯爵令嬢フローラは親し気に会話を楽しんでいる。私は一礼して、静かにその場から立ち去った。そういえばフローラと国王陛下が婚約破棄ということになれば、フローラは婚約者のいない身となる。
そして第二王子ライガ殿下は独身で婚約者もいなかった筈。もしや、フローラは国王陛下との婚姻が無理ならばと、次は第二王子に狙いを定めたのだろうか。
いや、そうと決まった訳では無いし、あまり他人のことをあれこれ詮索するのは良くないだろう。そう思いながら第二王子と赤髪の伯爵令嬢のいる方に視線を向けると、差すような鋭い眼差しのフローラと一瞬、視線が絡んだ気がしたが、フローラはすぐさま第二王子に笑顔を向けた。
その様子を見た私は、何だか妙に気疲れしてしまって人込みを離れて壁際に向かい、深く息をはいた。その時、私に付き添っていた茶髪の侍女ジョアンナが心配そうな表情を見せた。
「ローザ、大丈夫? 顔色が悪いわ」
「そう? 少し、人酔いしてしまったのかも」
「ちょっと、お水をもらって来ましょうか?」
「うん。お願い」
ジョアンナが私から離れたタイミングで黒い宮廷服を着た、見覚えのある暗い金髪の貴族が近づいてきた。
「久しいな。王立学園の卒業式以来か?」
「ダーク王子! お久しぶりです」
リオネーラ王太后が言っていた通り、王弟である第四王子もパーティに出席していた。セリナと同様にダーク王子とは学園時代のクラスメイト。
当時は特に親しく話をしていた間柄ではないけれど、周囲がほとんど見ず知らずの貴族ばかりの中で、見知った顔に出会えた私は懐かしさを感じると共に少しホッとした。
「ローザという侍女見習いの娘が、新王に見初められて後宮に入ったとは聞いたが、やはり寵妃ローザとは、おまえだったか」
「はい」
「寵妃として後宮に入ったからには、自由も無いだろう?」
第四王子はそう言って皮肉気に口角を上げる。私は白大理石の床に視線を落とした後、微笑した。




