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いつぞやは私のことを忌々し気な目で見ていたフルオライト伯爵家のフローラだったが、身内を亡くしたばかりの同級生を気づかってくれているようだ。まさか、彼女がそのような心づかいをしてくれるとは思っていなかったので、私は意外に思った。
「じゃあ……。オブシディア侯爵家に、私の事情を話してくれるかしら?」
「ええ、もちろん。よろしいですわよ」
「その際に事業資金の件は、私が学園を卒業するまで待って欲しいとオブシディア侯爵家に伝えて頂けないかしら?」
「事業資金?」
「そう言って頂ければ、先方には伝わるわ」
「分かったわ。お伝えしておくから、安心なさってね」
「ありがとう」
こういう案件を人づてに頼むのもどうかと思うが、親戚であるフローラから伝えてもらった方が、スムーズに話が通るかもしれないという打算もあった。そんな、私とフローラのやりとりを横で聞いていたローザが小首をかしげる。
「セリナ、事業資金って?」
「あ、父が生前ちょっとね。でも、問題ないわ」
「そうなの?」
「うん」
「そう。それにしても、セリナは婚約者がいるから卒業後も大丈夫ね」
「そうね……」
フルオライト伯爵家令嬢、フローラの意外な優しさに触れて、ちょっぴりキツネに包まれたような気持になったがオブシディア侯爵家に、こちらの事情を話してくれるというのは正直ありがたい。
突然、家族を亡くしたということで伯爵令嬢フローラだけでなく、先生やクラスメイトに心配されていたら、めずらしく取り巻きがいないダーク王子までやってきた。
「父親を亡くしたそうだな」
「ええ……」
同じクラスというだけで、ほとんど関わりが無かったダーク王子に話しかけられ少し戸惑っていると、王子は琥珀色の瞳に昏い影を落とす。
「気の毒にな……。だが、俺も明日は我が身だな」
「俺もって、ダーク王子のお父さまも?」
「以前、大病をわずらってから体調が思わしくない……。もう長くないだろうな」
「それって口外したら問題なんじゃ?」
ダーク王子の父といえば現王であるライオネル国王だ。そういう要人の健康状態と言うのは、国家機密なのではと心配したが、ダーク王子は首を横に振る。
「いや、王宮に近しい者にとっては周知の事実だ。俺がここで口にした所で問題ないさ」
「そうだったのね……」
まぁ、国王が長期間にわたって体調不良ならば、なかなか隠しおおせることでも無いのかと納得していると、ダーク王子は大きなため息をついた。