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美しい植物紋様の浮かし掘りにアクセントの金彩が施されている壁や柱、そして高い天井からは、大きなクリスタルのシャンデリアが吊るされ、その下では絹服の宮廷服や美しいドレス、きらびやかな宝飾品を着飾った大勢の紳士淑女が無事に第二王子ライガの無事な帰還を祝うために集まっていた。
人だかりが出来ている大広間の中心では青い礼服を着たレオン陛下や、紫色のドレスと黄金の装飾品で着飾ったリオネーラ王太后、婚約者である伯爵令嬢フローラ。
そして金褐色の髪と瞳が印象的な王弟、第二王子のライガ殿下が来賓客と杯を傾けながら談笑している。私は茶髪の侍女ジョアンナと、少し離れた場所から国王陛下や王太后、赤髪の伯爵令嬢、第二王子を眺めていた。
「フローラ……。普通に笑顔なのね」
「仮にも、国王陛下の婚約者が公の場で不愛想にしていたら問題になるでしょうからね」
「そうね……」
国王陛下が伯爵令嬢フローラとの婚約破棄する意向ということ知っているのは先日、陛下の部屋に居合わせたごく限られた者だけ。まだ公式な発表はされていない。後宮に来てすぐの婚約破棄は体裁が悪いだろうからと言っていたし、もう少し後に婚約破棄の発表があるのだろう。
あの時はさすがのフローラもショックを受けて取り乱していたけど、パーティ会場では平然と国王陛下の婚約者として笑顔で振りまいている。フローラの胆力は大したものだと感心してしまう。
広間で音楽隊が優雅に音楽を奏でている様子や、いかにも身分が高い家柄の貴族が歓談しているのを見ていると、私のような名ばかりの寵妃は場違い過ぎるように思えたが、礼節はわきまえねばならない。ひとまずリオネーラ王太后にあいさつをすることにした。
「王太后様」
「寵妃ローザではありませんか。あら、その首飾りは?」
「レオン陛下にお借りしたのです。パーティの時、身に着けるようにと言われまして」
私の首元には国王陛下からお借りした大粒サファイアの首飾りが輝いている。これを見せられた時は恐縮してしまったけれど、パーティに出席している周囲の王侯貴族たちがこぞってルビーやエメラルド、アメジスト、アクアマリン、真珠、金銀の宝飾品で着飾っている中では、さほどの違和感は無い。
陛下が私を気づかって、これを用意して下さった判断は正しかったのだと今なら思える。そんな私の首元をしげしげと見つめた金髪金目の王太后様は何やら思案気な表情をしている。
「そう、レオンがそれを……。その首飾りはレオンの祖母。先代の王太后が所持していた品ですね」
「えっ! そうなのですか!? 存じませんでした」




