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広い室内に入ると天井からは豪奢なクリスタルガラスのシャンデリアが吊るされ、部屋の中央には優美な猫脚のテーブルとイス、獅子の彫刻が施された大理石製の暖炉、その暖炉の上には植物をモチーフにした見事な黄金の燭台と大きな鏡。
壁際には寄木細工のチェストや飾り棚など、王室お抱えの家具職人が造り上げたのであろう見事な調度品が置かれている。テラスの側にいた金髪の国王陛下は、私の姿を見ると破顔して出迎えてくれた。
「ローザ。突然、呼び立てて済まなかったな」
「いえ……」
「今日は月が美しい夜だから外で月を眺めながら、そなたと晩餐を共にしたいと思ったのだ」
「外で……。ですか?」
「ああ、こちらだ」
レオン陛下に促され、テラスに出ると確かに夜空には美しい満月が輝いていた。
「まぁ、本当に綺麗な月ですわね」
夜空に浮かぶ月の美しさに感心した後、国王陛下の横に視線を移すと白い石造りのテラスにはオーク材で造られたテーブルとイスが設置されていた。
テーブルの上には食前酒、薄切りの鴨肉に彩りの良い赤色や黄色のパプリカが添えられた前菜から、芳ばしい香りがする澄み渡った琥珀色のスープ、カットした鹿肉に美味しそうなソースがかけられた皿、牛肉のワイン煮込みまで料理が整然と並べられていた。
「今日は二人きりで話がしたかったから食事はすでに全部、並べさせた」
「美味しそうですね……。これで全部なのですか?」
「そうだが、足りぬか?」
「足りないという訳ではありませんが……。デザートが見当たらないようなので」
「ああ。獅子王家は代々肉食の家系で、歴代の王たちも肉のみを好んで食べていたので、基本的に甘いデザートは用意されないのだ」
言われてみるとテーブルの上に並んでいる料理は鴨肉の前菜、鹿肉の皿、牛肉の皿と全て肉料理。本来なら魚料理も一皿くらい入りそうな物だけど、肉料理を好む獅子王族の為にあえて種類の違う肉を前菜やメインに用意したのだろう。そして、この分だとスープも恐らく肉を煮込んで出汁を取った物に違いない。
「えっ。でも以前、レオン陛下はケーキを召し上がってましたよね?」
「ま、まぁ……。食べられない訳では無いからな」
私が侍女見習いだった頃に偶然、私の部屋に入った王太子だったレオン様が複数のケーキを美味しそうに、ぺろりと食べてしまったことを考えるとケーキを好きなのは間違いないように思える。
しかし、テーブルに並べられた料理の数々を見ると、国王陛下はケーキなどの甘い物が好きだと言うことを公言していないから、宮廷料理人も歴代の王と同じように肉料理ばかり用意するようになってしまったのだろう。




