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「そうなんだ」
まだ幼い弟がいるというのに親を亡くして、ローザはこれからどうするのかと思っていたが、姉弟で親戚の所に行くのなら、ひとまず安心だろう。
「セリナは? 葬儀の時は、おばあ様と一緒だったみたいだけど」
「うん。ウチはおばあ様が私を心配してくれて……。自宅がツラいなら、いつでも来て良いって言ってくれてる。でも、おばあ様の邸宅は郊外だから。通学を考えたら、今の自宅を引き払うのは……」
通学を考えれば在学中は、今の自宅から通いたい。しかしオブシディア侯爵家への借金を返済するなら、自宅の売却は避けて通れない。
何しろ、自宅の売却だけではなくセレニテス子爵家の領地を手放すという話まで出ている位なのだから。
しかし、父親を失ったばかりのローザに、我がセレニテス子爵家の事情を話して余計な心配をかけても仕方がない。私は家の詳細については伏せておくことにした。
「そうなのね。でも卒業したらセリナは結婚するんだから、おばあ様のお世話になることは無さそうね」
「ああ、そう言われると……」
確かに、私にはクラレンス様という婚約者がいて、学園卒業後に結婚するという話になっている。本当に結婚するなら、祖母と暮らすこと無く侯爵家に嫁ぎ、そのままオブシディア侯爵家で暮らすことになるのだろう。
しかし両親が亡くなり、以前とは状況が変わってしまった。本当に予定通り、婚約者と結婚するのだろうか……。そんなことを考えていたらカツカツと靴音が近づいてきた。
「二人とも、出席されてたのね」
「あ」
鮮やかな赤い髪をゆらして現れたのはフルオライト伯爵家の令嬢、フローラだった。いつもなら、わざわざこちらに声をかけることもないのに、一体どういう風の吹き回しなのかと思わず身構えてしまう。そんな私の姿を見て、赤髪の伯爵令嬢はいたわしそうに眉を下げた。
「聞きしましたわ。セレニテス子爵とクオーツ男爵が、海難事故で亡くなったそうですわね」
「ええ……」
「お悔み申し上げますわ……。お二人とも大変ですわね。家族を亡くすなんて」
「フローラ……」
「でも、お気を落とさないで。もうすぐ、オブシディア侯爵家のクラレンス様が、留学から帰って来るそうですし」
「クラレンス様が……」
「私がオブシディア侯爵家の皆様とクラレンス様に、きちんとセレニテス子爵令嬢の事情をお話しておきますわ。それと、私に何か出来ることがあるなら遠慮なくおっしゃってね。力になるわ」