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「そう。そして今年、収穫できた農作物や貿易品で借用してたお金を返そうとしていたのよ」
「そんな。じゃあ……」
「ええ、船が転覆したことで積み込んでいた農作物や貿易品も失われて、オブシディア侯爵家に借りたお金を返すアテが無くなってしまったから。その補填に、この家を手放さないと」
「待って。オブシディア侯爵家のクラレンス様は、私の婚約者だわ!」
「婚約者だとしても……。いいえ、婚約者だからこそ、借用していたお金はきちんと返しておかないと……。私は借金のカタに、あなたを嫁がせるようなマネはさせたくありません」
「おばあ様……」
確かにお金のことに関しては、ちゃんと清算しておかないと後々まで禍根を残しかねない。例え身内であっても、お金の貸し借りは絶対にしないと決めている人がいるように、お金の借用という物はトラブルに発展しやすい。お金の貸し借りについては常にきちんとしておくのがマナーであり、ルールという物だろう。
「ただ、オブシディア侯爵家から借用しているお金を返すとなると、この家を手放すだけでは済まないかも知れません」
「え」
「おそらく、セレニテス子爵家の領地も手放さないといけなくなるでしょう」
「そんな……」
立て続けに身内を亡くしたことに加え、自宅と領地を手放さないといけないと知り、私は消沈した。領地を手放さないといけないとなれば爵位も同様だ。
つい先日までは優しい母と子爵の父に守られ、貴族令嬢として何不自由なく暮らしていたのに。突然の不幸が次から次へと降りかかり、もうどうすれば良いのか分からない。
翌朝、私の沈んだ私の心とは裏腹に、空は皮肉なほど晴れ渡っていた。泣きはらして重くなった、まぶたと顔を冷たい水で洗い身支度を整え、軽い朝食を胃に流し込んで学園に向かった。
両親からもらった命を大切にしなさいと祖母に言われたのもあるし、両親との思い出がつまった自宅にいてもツライと思ったのもある。学園に到着すると、やや憔悴した様子のローザがすでにいた。
「ローザ」
「セリナも来たのね。大丈夫?」
「うん。ローザこそ。大丈夫なの? その、ローザの所は父一人だって言ってたわよね?」
「ええ。でも、お父様の葬儀が終わったあと、おば様が」
「おば様?」
「あ、お父様の妹なんだけどね。私と弟を引き取りたいと言って下さって。姉弟で、そちらに身を寄せることになったの」