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いつものように早起きして朝から店舗で販売するケーキを作り終えた私はパティスリーが開店した後、双子たちに店番をまかせて、二階に上がるとテラスに出た。気持ちの良い青天の下、いつものように魔力をたっぷり注入した水を植物に与える。
銅製のジョウロから注いだ細かい水が太陽の光を受けてキラキラと輝き、小さな水滴を受けた植物は青々とした葉を気持ちよさそうに広げている。
魔力の実の苗は順調に育ち、色づきながら大粒の実をたわわに付けていた。紫色の実は学園で貰った時の魔力の実よりも一回り大きく色が濃いように思える。きっと実が熟しているのだろう。そろそろ収穫した方が良いと判断して実を採り、アシで編まれた丸い手カゴに濃い紫色の実を入れていく。
「初めてのガーデニングで作ったにしては上出来よね」
収穫し終えた私は一粒の実から、複数の実が収穫できたことに達成感を感じていた。育てるのが難しい希少品と聞いていたが案外上手くいくものだ。やはり、やってみなければ何事も分からない。
それにしても初心者が植木鉢でガーデニングして収穫までこぎつけることができるのだから、意外と価格を吊り上げるために栽培しにくいという事にしているのではという疑惑が胸をよぎった。
「う~ん。とにかく、収穫出来たらコルニクスさんに渡す予定だったわね」
自分で育てて収穫した物だから味が気になる所だが、不作で入手困難な魔力の実が必要らしいし、強引ではあったが約束は約束だ。それに、コルニクスさんには保冷庫や店頭のショーケースに設置している保冷装置の件で何かと融通を利かせてもらっている。
ここは日頃お世話になっているお返しもかねて、収穫できた分は全部渡した方が良いだろう。そう思いながら手カゴを片手に階段を降りて店頭で接客をしているルルとララに声をかける。
「ちょっと出るわ。すぐ帰って来るから」
「はーい!」
「行ってらっしゃいませ~」
こうして私はパティスリーの裏手にある魔道具店に向かった。ノックした後、きしむ木扉を開けて魔道具店に入ると、相変わらず店内のタナには大量の謎アイテムが無造作に置かれている。そして薄暗い店内の奥にあるカウンターに黒髪の男性が突っ伏している見えた。
「こ、コルニクスさん?」
「…………」
「まさか、死んで……!? いや、寝てるのね」
よく見れば呼吸で肩が上下しているし、安らかな寝息を立てている。カウンターの上には複数の輝石や謎の金属、工具。ガラスビンに入った謎の液体や古い書物、茶褐色の液体が入った陶器製のマグカップ、干し肉の入った袋が乱雑に置かれ、長時間ここで作業をしていたであろう痕跡がうかがえた。




