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しかし商隊の者に対して、俺のような筋骨隆々の大男が「甘い物が欲しい……。特にハチミツがたっぷり入ったケーキや菓子が食べたい」などと言う気には到底なれなかった。
パティスリー・セリナに関しては、店長であるセリナを偶然、ゴロツキから助けた縁があって店舗前を通りかかると必ず声をかけられ上手く店舗内に誘導されるし、周囲も何故かすっかり俺とセリナが恋仲だと思い込んでくれているので店舗に入っても問題ない。
セリナにはすでに俺のハチミツ好きがバレているが、彼女は俺のようなゴツイ男が甘い物が好きだと知っても笑わないし、この件を他者に面白おかしく吹聴したりしないので、パティスリー・セリナで蜂蜜ケーキを購入することは俺にとって唯一と言って良い上等なハチミツ菓子、獲得手段となっているのだ。
だが、長期に渡る商隊護衛でパティスリー・セリナから蜂蜜ケーキを獲得する手段が奪われた、俺の甘味飢餓は日増しに悪化の一途をたどり、はた目にも異変が分かる物となっていったらしい。
「すごい……! 黒熊ベルントの殺気が凄すぎて下級モンスターどころか、中級モンスターも近寄らない!」
「しゃべりかけたら殴り殺されそうな雰囲気なんだが、ベルントという男はいつもああなのか?」
「何やらドス黒いオーラが出てるが、黒熊ベルントは呪いでもかけられたのか!?」
などと商隊の者たちがヒソヒソと噂話をする程度には深刻な状態になった頃、ようやく次の護衛が見つかったということで商隊から解放された。
俺のドス黒いオーラのせいで大商人が胃を痛めて、必死に代わりの護衛を探したという話も小耳に挟んだが、そんなことはどうでもいい。とにかく、やっとの思いで拠点の街へ帰ってきたのだ。
「何だかんだで一ヶ月ほど街を離れていたか……。しかし、ようやく戻って来られた……!」
街に戻った俺は早速、パティスリー・セリナに向かった。目当てはもちろん『クルミとレーズンの蜂蜜ケーキ』だ。噴水広場までやって来るとパティスリー・セリナの店舗が一ヶ月前と変わらずそこにあった。
そっと窓越しに店舗の中を覗くと、すぐに従業員である猫耳のメイドと視線が合った。慌てて窓から離れると、時を置かずにセリナが店舗前に出てきた。
「ベルントさん、お久しぶりです! 最近、見かけないから心配してたんですよ!」
「ああ、久しぶりだな……。実は商隊の護衛依頼が長引いて、街を離れていたんだ」
「そうだったんですね。お元気そうで良かったです。そうだ! クルミとレーズンの蜂蜜ケーキ、今日もありますよ?」
「そ、そうか。では……」




