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秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!  作者: 中野莉央
クマ的に譲れない戦いがそこにあった。
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「長かった……」


 ギルドで「上級冒険者である黒熊ベルントに、商隊の護衛を頼みたい」という大商人からの依頼を聞いた時、思いのほか報酬が高かった為、引き受けたのが事の始まりだった。


 予定ではモンスターの多い森を抜けるまでという、一週間で終えられる依頼の筈だったのだが、モンスターから商隊を守り切って約束通り森を抜けたと思ったら依頼主である大商人が血相を変えてやって来た。


「山道で盗賊が出ると聞いたんだ! 予定より長くなるが同行してくれないか!? もちろん追加の報酬は支払う!」


 少しの延長なら構わないと快諾し案の定、商隊を狙ってやってきた盗賊を退治して無事に山道を抜けた。漸く仕事を終えたと思ったのも束の間だった。


「この先で狂暴な巨大モンスターが次々と旅人を襲っているらしいんだ! 報酬は弾むから、もう少し同行してくれ! 頼む……!」


 などと商隊を率いている依頼主に次々と仕事の延長を要請され、気づけば三週間も商隊に同行してしまった。商隊は長い隊列で、警備の薄い側面から積み荷を襲われれば防ぐのが難しい。


 実際、俺が目を光らせていたおかげで、山賊や盗賊、魔物から幾度となく積み荷や商隊の者達を守ることが出来た訳だから、依頼主の判断は正しかったのだろう。しかし、まさか三週間も拠点の街を離れることになると思っていなかった俺は、切実な甘味飢餓に陥った。


「最初の内は、まだ良かったんだがな……。セリナの作ってくれた『クルミとレーズンのはちみつケーキ』も焼き菓子もあった」


 しかし、当初は一週間の予定だったのだ。商隊の人間に隠れながら大事に食べていた『クルミとレーズンのはちみつケーキ』やクッキーなどの焼き菓子は、あっと言う間に無くなった。


 携帯食料として購入していた、干しブドウを食べてみたりもしたが、すでにパティスリー・セリナのケーキという極上の甘味を知っている俺は、干しブドウを食べては『クルミとレーズンのはちみつケーキ』を思い出して、切なさが増すばかりだった。


 そして二週間目には一粒づつ、じっくり時間をかけて味わいながら食べていた干しブドウすら尽きた……。絶望しかなかった。


 同行していた商隊の者たちは、どんどん機嫌が悪くなっていく俺を見て「きっと腹でも減っているんじゃないか?」「いや、酒を飲ませれば機嫌が良くなるはず!」とたびたび肉や麦酒を気前よく振る舞ってくれたが、俺が摂取したいのは肉や苦い麦酒じゃなくてハチミツがたっぷり入った甘いケーキなのだ。

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