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「貴様の目を見てすぐに分かったが……。後からやって来て権利を主張する者に、俺が譲る義理は無い」


「後からと言われれば確かにそうだが、それでも俺は諦め切れん……。獣人同士でお互い譲れぬ場合は戦って決めるのが掟だろう?」


「貴様がそういうつもりなら仕方ない」


 俄かに強い風が吹きつけたと思った瞬間、俺は先手必勝とばかりに右手の拳で打撃を繰り出した。しかし、黒熊ベルントはすでに見切っており黒いマントを翻して素早く攻撃をかわした。


 突き出した拳が空を切った俺はすぐに態勢を立て直し、振り返りざまベルントの横っ面を狙って蹴りを入れたが、上半身を逸らしてかわされた。


 続けざまに今度は足元を狙った蹴りを叩きこもうとしたが、それも紙一重で避けられた上、黒熊ベルントは左手で反撃を仕掛けてきた。


 大きな手で俺の顔を掴みかかろうとしてきたのを、何とか左横に避けて直撃をかわした瞬間、右頬に鈍い痛みが走る。そして、俺の顔を掴み損ねた奴の左手はつんざくような音を立てながら、背後にあった固い樹幹の一部を深くえぐり取った。奴の怪力に唖然とする。


「チッ! 熊の爪か……!」


 舌打ちして独り言ちたが、このままでは分が悪い。俺は腰に帯びている剣の柄に手をかけ素早く抜刀し横凪ぎに黒熊ベルントの首を狙った。しかしベルントが瞬時に一歩引いた為、剣先は奴の黒髪と額の薄皮一枚をわずかに切り裂いただけだった。


 うなるような強風に乗って、切り裂かれた黒髪は何処かに舞い散る。抜刀した俺を見据えたベルントは瞳を鋭く光らせながら、自身が背負っている大剣をゆっくりと引き抜いて構えた。


 次で決まる。お互い、無事では済まないだろう。そう思いながらも俺は剣を構え、渾身の一撃を食らわせてやろうとした瞬間だった。


「やめてー!」


「っ!」


「ベルントさんも、ヴォルフさんも! もう止めて下さい!」


「セリナ……」


 なんと長い髪を振り乱しながら、涙目のセリナが俺と黒熊ベルントの間に割って入ってきた。


「どうして……!? どうして二人が、私のケーキの為に争わないといけないんですか!?」


「は?」


「そんなにハチミツのケーキが欲しいなら追加で作りますから! これ以上、危ないことをするのは止めて下さいっ!」


 どうやらセリナは黒熊ベルントが買おうとしていた蜂蜜ケーキを俺が奪おうとした為に、決闘沙汰になっていると思ったらしい……。そんな馬鹿な。


「いや、俺は別にケーキの為に戦っていた訳じゃあ……」


「違うのか?」


「え?」


「え?」


 黒熊ベルントの発言に俺は我が耳を疑った。しかし、ベルントが先ほど発した「違うのか?」と言う問いかけは、つまりベルントも俺が蜂蜜ケーキを狙って戦いを挑んできたと思っていたのか?

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