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女官長さんから結構な金額の代金を受け取ったのもあって、王宮の馬車で店の近くまで送ってもらった。白い石造りの噴水広場が見えた所で、見覚えのある金髪碧眼の少年が石畳の道を歩いてることに気付き、馭者に礼を言い馬車を降りた。
「ケヴィン君!」
「あ、セリナさん」
「良かった! ちょうどケヴィン君に渡したい物があったの!」
「え?」
「ちょっと荷物を置いてくるから、あの噴水の所で待っててもらえるかしら?」
「……分かりました」
まずは店に戻り二階に上がって、自室にあるカギ付きチェストの中に金貨が入った袋をしまった。これでお金の保管はひとまず安心だ。
ふと窓の外に視線を向けると、バルコニーに出している複数の植木鉢『魔力の実』の苗が気持ちよさそうに陽光を浴びながら青々とした葉を広げている。
魔力の実の苗に関しては順調に育っていて、ついに実を付けはじめている。もっとも、まだ実は熟していないが、このまま順調に育てば近いうちに実を収穫することが出来るだろう。
「そうなると魔道具店のコルニクスさんに、魔力の実を渡さないといけないのよねぇ……」
半ば脅されたような形だったとはいえ、約束した事だし仕方ない。小さく息を吐いた後、ローザから預かっていた手紙と噴水広場で待たせているケヴィン君を思い出す。
「いけない! 早く、この手紙を渡さないと!」
慌てて階段を駆け下り、店の外に出れば金髪碧眼の少年が、白い石造り噴水のフチ部分に座りながらボンヤリと噴き出る水の流れを眺めていた。
「待たせてごめんなさいね! ケヴィン君」
「いえ……。それで、渡したい物っていうのは?」
「うん、これなの」
所持していた赤い封蝋が押してある手紙を差し出すと、ケヴィン君は軽く目を見開いた。
「手紙? もしかして……!」
「ええ。私、後宮にお菓子を納める仕事を請け負ってたんだけど、その関係でローザから直接、預かってきたの」
蒼玉色の瞳をきらめかせたケヴィン君は私からローザの手紙を受け取ると、その場で開封し手紙を読み始めた。そして読み進めるうちに、眉間にシワが寄り愕然とした表情となった。
「姉さんが……。寵妃に?」
「その事なんだけど……」
私はローザが言ってたことを伝えるべく言いかけたが、ケヴィン君は構わず口を開いた。
「国王って確か、伯爵令嬢の正妃を迎えて結婚するんですよね?」
「ええ。そう発表されたわね」
「つまり、姉さんは国王の愛人にされたのか」
「うっ……。まぁ、立場的にはそういう事になるわね……。でも」




