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「おばあ様?」


「セリナ……」


 私と視線を合わせた祖母は、沈痛そうな表情で眉根を寄せた。私の胸に不安が広がるが尋ねずにはいられない。


「お母さまと、おじい様は?」


「落ち着いて聞きなさいセリナ……。あなたの母とおじい様は昨晩、馬車での移動中に事故に遭いました」


「え?」


「折からの雨で、ぬかるんだ土に馬車の馬が脚をすべらせたのでしょう……。馬車が、崖の下に落ちたのです」


「ウソ……」


 昨晩、父とクオーツ男爵が乗った船が海難事故に遭って、それで安否確認のため、母と祖父が港に向かっていたはずだ……。なぜ、馬車の事故なんかに。祖母の言葉を聞いても、頭が理解するのを拒否する。


「残念ながらウソではありません。あなたの、お母さまとおじい様は馬車の事故で亡くなりました」


「そんな。お母さまとおじい様が……。あ、お父様は?」


「あなたのお父さまも……。今朝、海から遺体が引き上げられました」


「そんな!」



 私はショックのあまり、目の前が真っ白になった。そこから先は記憶があいまいだ。色々、話しかけられた気はする。あまりにも長時間、何も口にしていないから、何か飲むようにと言われたが食欲は全くわかず、何もノドを通らなかった。


 そして気がつけば冷たい風が吹きすさぶ墓地で、黒い喪服に身を包み、おばあ様と共に亡くなった父母と、おじい様の遺体が納められた棺の前に立っていた。


「セリナ……。お父様とお母様と、おじい様に最後のお別れをなさい」


「最後のお別れ……」


 三つ並べられた棺のフタは開けられており、両親とおじい様が棺の中で眠っているのが視界に入った。事故に遭った時に傷を負ったのだろう。ひたいや手の甲には痛々しい傷痕が見える。


 震える手で血の気が失せた母のほおに触れれば、つい昨晩まで温かかった母から完全に、ぬくもりが失われているのが分かった。


「お母様っ!」


 遺体の冷たさに触れて、私はこれが現実なのだと改めて痛感し涙を流した。しかし、もし本当に私が『聖女』なのだとしたら『奇跡』を起こすことが出来るのでは? そんな考えが頭をよぎった私は、冷たくなった母のほおを両手で包み込んで、祈りながら魔力を送る。


「セリナ……。何をしているのです?」


「魔法です、おばあ様。回復魔法で傷を治せば、もしかして……」


「回復魔法の使い手なんて、ほんの一握りではないの。本当に?」


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