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「とにかく、あなたの友人が了承して王宮への納品が可能になれば、こちらから大口の仕事も依頼できるわ」
「大口の依頼? 私が食べるケーキ以外にも、ミランダ様も注文するんですか?」
「いいえ。あなたの名前での注文になるわ」
「私の名前で、たくさんのケーキを注文するんですか?」
「ケーキじゃなくても良いんですけどね。一般的に後宮で身分が高い正妃や寵妃は、下働きをしている側女たちに対して記念日や祝日などに、ささやかな品を贈ってあげる慣習があるのよ」
「ああ、何となく分かります」
国王が臣下にちょっとした褒美を取らせるという事の、後宮版が側女などの下働きの娘にお菓子などを贈るという事なのだろうと理解した。
私も後宮に来た初日、浴場へ連れて行かれた時、側女たちに髪や身体を洗ってもらった。さらに、その後マッサージをしてもらいながら香油まで塗り込んでもらった。
あの時はとても緊張していたし、望んで後宮に来たわけでは無いのに、どうしてこんな事になってしまったのかという戸惑いと不安が大きすぎて、側女たちにお礼を言う余裕すら無かった。しかし、髪を洗うのも身体を清めるのも、とても丁寧にやってもらった。本来ならきちんと礼の言葉をかけるべきだった筈……。
確かに正妃や寵妃の立場なら、何かと側女の世話になることも多いだろうから彼女たちに、ささやかな贈り物を渡すというのも納得できる。
「豪勢な寵妃は高い所から金貨をばら撒いて、側女たちに競って拾わせたということもあったそうだけど、ローザは性格的にそういうのはやらないでしょう?」
「そんな……。人にお金を拾わせるなんて、私には……」
「ええ。ですから側女たちの贈り物は、甘いお菓子を用意すれば良いわ。後宮の女たちは身分年齢問わず、みんな甘いお菓子が大好きですもの」
「あ……。そのお菓子をセリナに注文するんですね」
「その通りよ。ローザもこれから後宮で暮らすなら側女や侍女たちの世話になるし、後宮でのあなたは新参者ですからね……。寵妃として挨拶の意味を込めて側女たちにお菓子を配って、下働きの者たちを喜ばせて心証を良くするのは悪いことでは無いわ」
思いがけず後宮に入ることになってしまったけど女官長ミランダ様の言う通り、これから寵妃としてここで暮らすなら側女や侍女たちの世話になるのは間違いない。
彼女たちに挨拶もかねてお菓子を贈るのが慣習で、そのお菓子をセリナに依頼することで、セリナがやっている店の助けになるというなら…………。
「ミランダ様。私、側女たちに贈るお菓子をセリナに依頼したいです……!」
「決まりね。私に任せておいて」




