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「あなたのお友達が雨の中、こちらに訪ねて来るかも知れないでしょう?」
「それは……」
確かに私の父と、クオーツ男爵が乗った船が沈没したと聞けばローザが、ここにやって来るかも知れない。
「お友達が来た時に、誰も居ないのでは気の毒だわ……。セリナはここで待っていなさい。私とおじい様で確認してきます」
「分かったわ。お母さま、おじい様、気をつけてね」
「ええ」
母が祖父の馬車に乗り込むと雨の中、馬車が走り出す。おじい様は、父とクオーツ男爵が乗った船が転覆したと言っていたけど、無事でいてくれてるだろうか。
外は相変わらず、激しい雨と風が打ちつけている。船が転覆した時に命があったとしても、こんな天候の日に海へ投げ出されて無事でいられるのか。おそらく、海の波も高いはず。考えれば、考えるほど不安と焦燥で胸を締め付けられるようだ。
この世界にスマホなどでの連絡手段が無いことが悔やまれる。この自宅から港へ安否確認へ向かい、消息不明の父を探すというのは、どれだけ時間がかかるか全く分からない。
船が転覆した場所が陸から近い場所であれば、まだ救いがあるかも知れないが、もしそうでないなら考えたくないが、この天候と肌寒さを考えれば生存の望みは薄いだろう。
「もし……。もしも、私が『聖女』だというなら……。本当に聖女が『奇跡』を起こせるなら、どうかお父さまとクオーツ男爵が無事でありますように…………!」
あれほど聖女になりたくないと願っていた私だったが、今は自分が『聖女』である可能性に一縷の望みをかけるしかった。こうして私は一晩中、必死に父とクオーツ男爵の無事を祈り続けた。
カーテンのすき間から差し込む、朝日のまばゆさと肌寒さで目を覚ます。いつの間にか居室のソファで眠りこけていて、暖炉の火はすでに消えているのが視界に入った。
私は、肩から落ちかけていた浅緑色のショールを羽織り直す。カーテンを開ければ、窓の外では昨晩の雨でぬれた枝にとまった小鳥がさえずっている。
「朝……。お父さまと、お母さまは……?」
母が帰宅している様子は無い。まだ港なのだろうか? それとも祖父と共に、船が転覆したという現場近くに行ったのだろうか? そんなことを考えていたら、外から馬車が近づく轍の音が聞こえてきた。
「もしかして、お母さま!?」
急いで玄関に出てみれば、ちょうど馬車から祖母が降りる所だった。