209
「父王の時と余の代では状況が違う。余は弑逆して王位に就いた訳ではない。父王の時はレーベ王の子を生かしておけば『親の仇』として命を狙われる可能性が高かったから、やむを得なかったのだ」
「ではレオン陛下は弟君たちを、どうされるおつもりで?」
「弟たちには、それぞれ地方の知事をさせるつもりだ。兵力の少ない小都市を治めてもらう。牙を抜いておけば危険もあるまい。余は何の咎も無い、弟たちを処刑するつもりはない」
「さようでございますか。レオン陛下は、まことにお優しいことで……。ですが、その優しさが裏目に出るやもしれませんぞ?」
「余に意見するという訳か?」
「め、滅相もございません! それでは失礼いたしますっ!」
レオン陛下の眉間の皺が深く刻まれ、琥珀色の瞳に怒気が宿ったのが見え、銀髪の宰相は剣呑な雰囲気を感じ取ったのだろう。一礼すると慌てて去って行く。そして、金髪の新王も中庭を後にして国王執務室へと向かって行ったので私も王を追い声をかける。
「国王陛下!」
「ああ、女官長か」
「はい。陛下の仰せになられた刻限となりましたので参りました」
「ちょうど良い、来てくれ」
金髪の新王に促され、執務室に入るとレオン陛下は持っていた小箱を机の上に置き、椅子に腰かけた。
「陛下、ご用とは?」
「うむ。これなのだが……」
そう言いながら新王は机の上に置いた小箱から、おもむろに宝飾品を取り出す。海の色を思わせる藍玉のペンダントに深い蒼玉の指輪。大粒真珠のイヤリングに琥珀のブローチ、美しい翠玉のブレスレット、紫水晶の髪飾りと、どれも一目で高い価値があると分かる逸品である。
「美しい装飾品ですね」
「女官長……」
「はい?」
「余はこういう物を贈ったことが無いから、よく分からぬのだ。どれを贈ればローザは喜ぶだろうか?」
私は王の手前、身じろぎもせずにいたが心の中ではヒザから崩れ落ちていた。まさか、この質問をするために女官長である私を国王執務室へ呼んだのか!? 我が耳と目を疑ったが、金髪の新王は真剣な表情で複数の宝飾品を眺めて、どれを選ぶべきかと頭を悩ませている。
「陛下……。僭越ながら」
「よい。申してみよ」
「は……。どれも素晴らしい一品でありますが今、ローザに高価な装飾品を贈るのは如何なものかと……」
「宝飾品を贈るのは良くないのか? 父王は母上や寵妃に宝飾品を贈っては喜ばれていたと記憶しているのだが……。宝飾品が駄目なら、ドレスでも贈るべきか?」




