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「ジョアンナ。ローザのこと、頼みますね」
「はい。お任せ下さい。ミランダ様」
こうして、侍女ジョアンナにローザの身の回りの世話を任せた私は寵妃の部屋を後にした。そして眩しい陽光が差し込む後宮の通路を歩き、国王の婚約者となった伯爵令嬢フローラ様が入る予定の部屋を検分し、いつからでも使えることを確認した後、王太后リオネーラ様の部屋へと向かい、扉をノックした。
「王太后様、女官長ミランダでございます」
「おお、ミランダか。ちょうど良かったわ」
「何かございましたか?」
室内では。王太后リオネーラ様が、ゆったりとソファに腰かけながら手元の書状に目を通し、その様子を王太后付き女官長であるゾフィー様が横に控えながら見守っていた。
「昨日、私が書いた手紙の返事がフルオライト伯爵家から、先ほど早馬で届いたのです」
「返事には何と? 伯爵令嬢フローラ様はやはり、すぐにでも後宮入りされるのでしょうか?」
「ええ。荷物をまとめ準備が整い次第、後宮に入ってお妃教育を受けたいと書状に認められています」
「さようでございますか。こちらも国王陛下の婚約者様が、いつ後宮に入られても良いようにお部屋の準備は万端でございます」
笑顔で答えれば、金髪金目の王太后様は満足そうに瞳を細めた。
「それは重畳。それとミランダ……。おまえは女官長に就任して間もないというのに早速、レオンに寵妃を薦めてくれたのですね」
「え?」
「昨晩、あなたが用意してくれた寵妃の為、レオンが後宮まで足を運んだことは私の耳にも入っています。よくやってくれましたね」
「い、いえ……。私は」
「謙遜することは無いのですよ。前女官長ゾフィーですら、手を焼いていたことですからね。そうでしょうゾフィー?」
王太后リオネーラ様が視線を向けると、傍らに控える白髪の王太后付き女官長は穏やかな笑みを浮かべた。
「はい。ミランダを後任に選んだ私の目に、間違いは無かったと安堵しております」
「ゾフィー様……」
「伯爵令嬢フローラが正妃になるとはいえ。万が一、正妃に御子が出来なかった場合や、仮に生まれても男子ではなかった場合。それに夭折してしまう場合もありますからね。その時は、寵妃が産んだ子が重要になってきます」
そう。王太后様の言う通り、過去には正妃の御子が夭折した際に結局、正妃との間に世継ぎが出来ず、寵妃が産んだ御子が王位に就いたこともある。
「レオンの子を産むかも知れぬ娘です。その寵妃のこと、くれぐれも頼みましたよ」
「はい……」