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「ミランダ様。全身に香油を塗り込めました」
「ご苦労。おまえ達は下がっていいわ」
「はい。失礼いたします」
香油を塗り込めていた側女たちを下がらせると、次は侍女たちに指示を出す。
「ローザに、この服を着せてちょうだい」
「かしこまりました」
通常、ドレスを着る時は、固い革と補強材で作られたコルセットを紐できつく縛って、腰を細く見せると同時に胸元を豊かに見せる物だが、仮にも後宮で国王が寵妃に召し上げた者に会うのだから、脱着に時間がかかる衣装はよくないだろう。
ローザの為に選んだ淡い水色の衣装は肩から腕が多少、露出しているが肩で結ばれている薄布のリボンを解かなければ問題ない着衣だ。逆に言うとその気になれば、すぐ脱がせることが可能。
国王執務室での話しぶりでは『ローザに話をする』だけとも受け取れたが、後宮に入れた寵妃を目の前にして若き新王が伽を所望する可能性もじゅうぶんある。どちらでも対応できるような着衣にしておくのは当然だろう。
されるがままに衣装を身に着け、プラチナブロンドを整えられていたローザは、ふと目の前にある鏡に映った自分の姿を見た瞬間、顔色が蒼白になり視線を床に落とした。恐らく、すぐに脱がせることが可能な衣装だと気付くと同時に、その意図を察したのだろう。
衣装と髪を整え、装飾品を身につけさせた後、再び寵妃の為に用意した部屋に戻るとローザは立ちつくしたまま、ポロポロと涙を流した。
「ローザ……。泣かないでちょうだい」
「ミランダ様、私……」
「国王陛下のご意向で、すでに決定した事です。運命だと思って受け入れなさい」
「寵妃になるなんて考えたこともなかったのにっ……!」
肩を震わせて、しゃくりあげながら泣き出したローザを前に、私も何と言葉をかけるべきか途方に暮れる。咽喉から手が出るほど寵妃として与えられる特権や褒美の金貨が欲しい、大部屋住みの側女にしてみれば、王と寝台を共に出来るのはとても幸運なことであり、栄誉なこと。
しかし下級貴族とはいえ、曲がりなりにも貴族令嬢であるローザは侍女として純粋に働く為、王宮へ来たのだからこのような事態になるとは夢にも思ったことがなく、まして王立学園を卒業したばかりのうら若き娘。取り乱してしまうことも理解できる。
「ローザ、よく聞いてちょうだい……。レオン陛下は今晩『ローザと話をする』とおっしゃってたの」
「話……?」
「どうして貴方を寵妃として後宮に入れたか、ご説明して下さるはずよ」