202
後宮の寵妃用に用意された部屋は以前、ローザが王宮で住んでいた侍女見習い用の部屋に比べれば格段に広く、調度品も上等な物が揃っている。天蓋付きの寝台に、花と植物紋様の装飾が美しい姿見の鏡。上品な猫脚のキャビネットにテーブル。ゆったりとした革張りのカウチソファには木材部分に見事な彫刻が施され、一目で高級品だと感じられる。
「今日から、ここがあなたの部屋です」
「こんな豪華な部屋、私には勿体ないです。ミランダ様……」
「『薔薇の庭が見える部屋をローザに』と陛下のご指示です」
「そうなのですか?」
「ご厚意をありがたく受け取りなさい」
「……はい」
ローザが頷くと、長いまつ毛が藍玉色の瞳に昏い影を落とした。ローザの憂いを帯びた表情が気になるが、やることは累積している。
「それと食事を済ませたら浴場へ行きますから、そのつもりで」
「え?」
「今晩、陛下が参られるそうです。用意をしなければなりません」
「用意……」
その後、侍女に食事を運ばせたがローザは、僅かなパンとスープを口にしたのみだった。突然、後宮に入ることになったのだから食欲が無いのも無理はないと判断した私は食事を終わらせ、浴場へ向かわせることにした。
服を脱ぎ、一枚布で胸から太ももを隠したローザが湯気の沸き立つ浴場の椅子に腰かけると、私が呼んだ二人の側女がローザの頭や腕にゆっくりと湯をかけ、プラチナブロンドの髪や白い肌を磨いていく。
「なんて美しいプラチナブロンドでしょう」
「それに真珠のような肌……。さすが、陛下が見初められた方」
二人の側女はローザの髪や肌の美しさに感嘆の声を上げた。
「陛下とご寝所を共にされるなんて、羨ましいですわ」
「そんなに身体を強張らせないで、リラックスなさって?」
「伽は初めてですの? 陛下に全ておまかせしていれば大丈夫ですわ……」
側女がクスクスと楽し気に笑いながら話すたびに、ローザの顔から血の気が引いて行くのが分かった。
「無駄口を叩いてないで、手を動かしなさい! 身体を清め終わったら着衣と髪を整えないといけません。急ぎなさい!」
「はい」
頭を垂れる側女とローザを残して浴場を後にした私は、後宮の衣裳部屋へ向かう。後宮にはドレスを持っていない大部屋住みの側女や、寵妃が着飾るためのドレスや装飾品の用意がある。
衣裳部屋の中にあるドレスから当面、ローザが寵妃として着るためのドレスなど数着と装飾品を見繕って急ぎ浴場へと戻ると、身体を清め終わったローザが、側女によって腕や脚に香油を塗りこめられている所だった。