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二人の近衛兵の内、一人が執務室の扉をノックした後、中に入った。来訪者の身分と名前を聞いて国王陛下が会うかどうか判断を伺っているのだろう。入室していた近衛兵はすぐに扉から出てきた。
「国王陛下はお会いされるそうです。どうぞ」
「ありがとう」
近衛兵が開けてくれた扉から執務室に入室すれば、金髪の国王陛下は手に持った白い羽ペンで執務机の上に置かれている書類にサインを認めている。私は深く頭を垂れた。
「女官長ミランダでございます」
「何用だ?」
「レオン陛下の婚約者、伯爵令嬢フローラ様の後宮入りが当初の予定より早まるそうですので、お伝えに参りました」
「何故、予定よりも後宮入りが早まるのだ?」
「王太后リオネーラ様が一日も早く、伯爵令嬢フローラ様にお妃教育を受けさせたいということで、すでにフルオライト伯爵家に打診の手紙を出されました」
「そうか……」
金髪の新王は深く息を吐いて、手に持っていた羽ペンを置いた。
「リオネーラ様は、レオン陛下と伯爵令嬢フローラ様に仲良くして欲しいと憂慮されてました。フローラ様が後宮に入られた際には一緒にお過ごしになる時間を増やされれば、王太后様もご安心召されるかと……」
「その話はもうよい。……女官長」
「はい」
「侍女見習いにローザという者がいただろう? 藍玉色の瞳にプラチナブロンドの娘だ」
「ローザなら確かにおります。侍女見習いから、正式に『侍女』となりましたが……。ローザが何か、粗相でも致しましたか?」
思わぬ名前が出て驚く。もし、ローザが何らかの失敗をして新王の気分を害していたとしたら、上司として失態を詫びねばならない。しかし、新王は首を横に振った。
「いや粗相をした訳ではない。ローザの実家について教えてほしいのだ。伯爵家か? それとも子爵家か?」
「確かローザの実家は、クオーツ男爵家だったかと……」
「男爵家か……。家族構成は?」
「王立学園に入学したばかりの弟が一人いると聞いております」
「両親は?」
「母は幼少期に亡くなっているそうで、父親はローザが王立学園にいた時、事故で亡くなったと」
「そうか……」
「陛下。いったい?」
突然、部下の家柄や家族構成を問われたことに対して、新王の真意が分からず戸惑う。いや「まさか」という疑念は胸の内に生じているのだが、よりによって婚約者が後宮入りするというタイミングではありえないだろう。自分にそう言い聞かせていたが、新王は無表情のまま琥珀色の両眼でこちらを見据えて一つ、頷いた。
「女官長。ローザを余の寵妃とする」