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貴族令嬢といえば、学園卒業後は基本的に結婚して家庭に入る者がほとんどである。てっきり彼女もそうだと思い込んでいただけに、ローザに働きたいという意思があることに驚いた。
「ウチは貴族と言ってもそれほど裕福じゃないし、弟が学園に通うようになるから何かと入り用でしょ? 家計の助けになるように仕事がしたいの」
「仕事を……。ローザは偉いのね」
「それほどでも無いわよ。一度、貴族の所にでも嫁いだら、働く事なんて一生できないだろうし。いい社会勉強になりそうじゃない?」
「そうね……」
いつも優し気なローザが卒業後、弟や家計の為に働こうとしてると知り、感心すると同時に自分が何も考えていなかったことが恥ずかしくなった。
私は卒業後、何もなければ親同士が決めた婚約者であるオブシディア侯爵家のクラレンス様と結婚することになっている。このまま流されるように、自分の未来が決定してしまうのだろうか?
学園卒業後のことをローザと話してから、妙に自分の胸に引っかかる物がある。私は本当にこのままで良いのだろうかと……。
学園での授業が終わって帰る途中に空を見上げれば、にわかに暗雲が立ち込めてきた。急いで帰宅すれば強い風が吹き始め、土砂降りの雨までもが降り始めた。大粒の雨が絶えず激しい音を立てながら窓ガラスに打ちつけている。
天気が崩れそうになった時に、通いのメイドは自宅に帰らせたので家の中には母と私の二人だけだ。さいわい、明日とあさっては学園が休みなのでゆっくりできる。
少し冷え込んできたので浅緑色のショールをはおった後、居室の暖炉に薪をくべた。そして、白磁器のティーカップに温かいハーブティーをいれて母と飲む。こういう時はおとなしく自宅で過ごすのが最善だろう。
前世なら、アスファルトやコンクリートできちんと舗装された道で占められていたが、この世界の道は一部の石畳以外は、ほとんどが土。
つまり、雨の日に歩けば足元はドロドロになってしまうし、場所によっては土がぬめって、すべってしまう。よって火急の用でもない限りは、こんな雨の日に外出する者はいないのだ。
「それにしても、すごい雨風ねぇ……」
「お父様とクオーツ男爵は大丈夫かしら? もう帰路についてる頃なのよね?」
「ええ。予定通りなら、船が港についてる頃ね。嵐に遭遇してなければいいんだけど……」