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私は感嘆したが、金髪金目の王太后は小さな溜息を一つ吐く。
「しかし、レオンと伯爵令嬢フローラの結婚式まで、あと半年を切っています。時間が足りません」
「確かに……。貴族令嬢としての下地があるとはいえ、お妃教育を受けるとなると半年は些か短い気も致しますね」
「ですから伯爵令嬢フローラには、結婚する前から後宮に入ってもらい。時間を無駄にすることなく、私の元でお妃教育を受けさせたいと思っているのです」
「なるほど。それは素晴らしいお考えで……」
伯爵令嬢フローラの住まうフルオライト伯爵家の邸宅から馬車でこちらに通うより、後宮に入ってお妃教育を受ければ朝から晩まで時間を有効に使える。効率を考えれば後宮入りした方が良いに決まっている。
「手紙には伯爵令嬢に『一日も早く、後宮に入ってお妃教育を受けて欲しい』と書きました。新王の婚約者として伯爵令嬢フローラなら、すぐにでも後宮に入ってくれると思うのですが……」
「はい。王太后リオネーラ様のご意向と聞けば、伯爵令嬢フローラ様も早急に後宮入りしてお妃教育を受けたいと考えるに違いないでしょう」
「そこで、新王レオンの婚約者フローラに部屋が必要です。女官長ミランダ、新王の婚約者に相応しい部屋を後宮に用意して欲しいのです」
「かしこまりました。早急にご用意いたします」
「それとレオンにも婚約者である伯爵令嬢フローラが、予定よりも早く後宮入りすることになるであろう旨を伝えておいてちょうだい。……新王の知らぬ間に婚約者が後宮入りしたのでは、あの子も驚くでしょうからね」
「分かりました。後ほどレオン陛下を尋ねて伯爵令嬢フローラ様の件、お伝えします」
「レオンはどうも結婚に乗り気では無いですからね。早めに後宮入りしてお妃教育を受ける、いじらしい婚約者に心を砕いて、結婚前の婚約期間でも仲良くして欲しいものです……」
悩まし気な様子で、窓の外を見つめる王太后リオネーラ様に深く頭を垂れることで同意の意を示し、私は王太后様の居室を退出した。そして、フルオライト伯爵家へ王太后様の手紙を届けるべく使いを出し、新王レオン陛下の婚約者が入る部屋を整えるよう指示した。
そして、全ての段取りが済んだ後、伯爵令嬢フローラ様の後宮入りが早まるであろうことを新王へ伝えるべく、国王執務室へと向かった。国王執務室前に到着した私は、直立不動で警備をしている二人の近衛兵に一礼する。
「女官長ミランダです。陛下にお話がございます」
「少々お待ちください」