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女官長ゾフィー様に国王陛下ご崩御の一報を伝えた後、ゾフィー様と共に王妃リオネーラ様へ元へ向かった。
「リオネーラ様!」
「おお、ゾフィーか。そなたがそのように慌てるとは珍しい。何かあったのですか?」
居室でお茶を飲んでいた金髪金目の王妃が方眉を上げながら問いかければ白髪の女官長は一礼して、ためらいながら報告する。
「先ほど、ライオネル陛下が崩御されたと……」
「陛下が!?」
金色の瞳を見開いた王妃リオネーラ様は、すぐにライオネル陛下の元へ向かった。国王の寝室では宮廷医師や侍従たちが沈痛な表情で妃殿下を迎えた。
「リオネーラ様……。つい先ほど国王陛下の容態が急変いたしまして」
「そのまま、眠るように息を引き取られました」
「手を尽くしたのですが……。力及ばず、申し訳ございません」
複数の宮廷医師が悲壮な様子で謝罪する。もし、国王陛下の逝去が医師による不手際だと責められれば最悪、死罪もありえるだけに医師たちの表情は、まるで死刑宣告を待つ咎人の如く蒼白だった。
天蓋付きの寝台に横たわる国王陛下は長い闘病生活により痩せ細り、その顔には病の痛みによって深く刻まれた皺の跡が見える。リオネーラ王妃は悲痛な面持ちで、血の気の引いた国王陛下の頬にそっと触れた。
「しばらく、陛下と二人きりにして」
「はい」
王の寝室から宮廷医師や侍従たちが出て行き、寝室の扉が閉められるのと同じタイミングで、豪奢な宮廷服を着た銀髪の宰相ハイン様や貴族たちが、寝室の隣にある控えの間に集まってきた。
「ライオネル陛下が崩御されたというのは、まことか!?」
「はい……。ただいま、王妃リオネーラ様が二人きりにして欲しいと」
「何という事だ!」
銀髪の宰相が眉間に皺を寄せ、語気を強める。周囲の者たちも嘆きながら手で顔を覆い、口々に嘆く。
「快癒とはいかなかったか……。おいたわしいことだ」
「王太子殿下の婚約も待たずに逝去されるとは……」
「こうなったからには、国葬の日程を決定せねば」
「ああ。同時に王太子殿下の戴冠式の日程も調整せねばならん」
重臣たちが今後のことについて話し始めた時だった。寝室の扉が開かれ、王妃リオネーラ様が重臣たちの前に姿を現した。
「リオネーラ様。ご心痛、お察しいたします」
「まことに……」
宰相閣下をはじめ、貴族たちが次々と金髪の妃殿下に恭しく頭を垂れ口上を述べる。そして、天蓋付きの寝台に力無く横たわる国王陛下にも、形式的な別れの挨拶を述べていく。
銀髪の宰相が王の亡骸と対面をすませ寝室から出ると、リオネーラ王妃の金目が伴侶を亡くしたばかりとは思えぬほど鋭く光った。
「宰相ハイン」
「はっ、何でしょうか。リオネーラ様」
「今から会議を始めます。速やかに重臣たちを集めなさい」




