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「いや、私としては構わないよ。もしクオーツ男爵が了承すればの話だが」
「ありがとうお父さま! 明日、ローザに話すわ!」
翌日、学園でローザに父の了解は得た旨を話すと、ローザの父も途中まででも同行してもらえるなら助かると話していたということで、その後はトントン拍子に話がまとまった。
父の一人旅に気をもんでいたローザだったが、こうして私の父と行くことが決定したことで安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとう! 行きも帰りも、セレニテス子爵が同行してくれるそうだし。セリナのお父さまが一緒なら安心だわ!」
「私もローザのお父さまが一緒なら安心だわ」
一人で離れた領地に向かってる途中で何かトラブルがあった場合、この世界では安否確認すらままならないが、同行者がいるなら万一の時も大丈夫だろう。
こうしてローザの父、クオーツ男爵と私の父、セレニテス子爵は領地に向かった。馬と船を乗り継いでの旅に出た。父たち出立した後、学園でいつも通りローザと何気ない話をする。
もうすぐ卒業をひかえているという時期なので、話題はもっぱら卒業前後のことになる。ローザは微笑みながら尋ねてきた。
「お父さまと、セレニテス子爵は私たちが学園を卒業する前には戻って来れるはずよね」
「うん。予定通りなら」
「卒業したらセリナは婚約者と結婚するんでしょう?」
「そうね。一応、そういうことになってるらしいけど……」
「セリナの婚約者、クラレンス様は侯爵家のご子息ですものね。結婚後は悠々自適でしょうね。うらやましいわ」
「どうかしら。まだ、ご本人とお会いしたことがないし……」
婚約者については、親同士の口約束で本人との顔合わせすらしていないので、どうにも現実感がわかない。肩を落としていると、私が婚姻を不安に思っていると感じたらしいローザは励ますように微笑む。
「セリナなら大丈夫よ!」
「だと良いんだけど……。ローザは卒業後、なにか予定はあるの?」
「私は特に縁談も無いのよね」
「そうなの?」
ローザは器量が良いし、性格だって明るく優しい。私の幼少期は縁談の申し出が複数あったのにローザには無いというのは意外だった。
「セリナも知っての通り、私って貴族令嬢と言っても魔力が低い男爵令嬢じゃない? 良い条件とは言えないから仕方ないわ」
「そんなことは……」
「うふふ。別に気にしてないから……。まぁ、嫁ぎ先が見つかるまで、どこかで働けたらいいなぁと思ってるけど」
「え、働くの?」