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「そうだ! ちょうど良い物があるんだ! 姉さん、こっちに来て!」


 笑顔の弟に手を引かれるまま白いドーム屋根の美しい東屋に入れば中に設置されている長椅子の上に、木の皮を編み込んで作った箱が置かれている。


「これは?」


「ケーキだよ」


 そう言いながら弟が箱の蓋を開けると中には、こんがりと狐色に焼けた美味しそうなパイ、宝石のように輝く真っ赤なクランベリーが乗ったタルト、旬の果物が惜しげもなく使われているフルーツケーキなどが入っていた。


「すごい……。これ、高かったんじゃないの?」


「それが初回限定のサービスだからって、タダでくれたんだ!」


「これがタダで!? 何故そんなサービスをしてくれたのかしら?」


 私が驚きながら疑問を口にすれば、弟は満面の笑みを浮かべた。


「実はこのケーキはセリナさんの店で貰ったんだ」


「え? セリナってまさか……」


「うん。ローザ姉さんの友達のセリナさんだよ」


「セリナはお店を始めたの!?」


「そうだよ。姉さんが王宮に行った後、すぐにケーキ店を始めたんだって。パティスリー・セリナっていうケーキ屋だよ」


「パティスリー・セリナ……」


 前に会った時は、店を始めるなんて一言も話していなかっただけに呆然としてしまう。普通に考えて、店名に『セリナ』という名前が入っているということはセリナ本人が料理人として、このケーキを作っているということだと考えられるけど、彼女は仮にも子爵令嬢。


 貴族令嬢が職人として働くなんて聞いたことが無い。そんな話にわかには信じがたい。しかし、弟がこんなことで嘘をつく理由もない。そういえばセリナのご両親や祖父母が亡くなって、没落貴族となった関係で働かざるをえなくなったのだろうか。親友の近況を考えて胸が痛んだ。



「本当はちゃんと買うつもりだったんだけど、セリナさんが『ローザには学園時代お世話になったから』って……。その代わりセリナさん、姉さんに『よろしく』って伝えて欲しいって言ってたよ」


「そんな事を……。ケヴィン、セリナは元気そうだった?」


「うん。元気そうだったよ。パティスリー・セリナは小さい店だけど繁盛してるようだし、セリナさんも明るかったから、姉さんが心配する必要は無いと思うよ?」


「そう? それなら良いんだけど……」


 安堵して胸を撫で下ろしていると、ケヴィンはケーキが入った箱をズイと私の前に差し出す。


「店で売り子をしてた猫耳のメイドが言ってた、売れ筋のケーキを入れてもらったんだ。姉さん、好きなの選んで食べてよ!」

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