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「アップルパイかぁ……。ルルとララに持たせた物は今、この店で取り扱ってる物と違うのよねぇ」
「この店で売ってるアップルパイはスパイスが入ってるけど、孤児院の子供たちに持っていったアップルパイにはスパイスが入ってないんでしたよね?」
「ええ。スパイスで味付けしてある方が専門店的な味だと思ったんだけど、子供たちにそんなに好評でウワサが広まってるなら、スパイスが入ってないタイプも取り扱おうかしら?」
「スパイスが入ってないアップルパイ、私たちも食べましたけど、とっても美味しかったので両方取り扱うのは良いと思います!」
「私もそう思います!」
「うん。じゃあ、大人向けと子供向けで両方、売り出してみましょうか」
そんな感じで二種類のアップルパイを取り扱い始め、幸い時期的にリンゴが旬で安く、美味しくなる時期だったのでアップルパイの売れ行きが好調なのはありがたかったが目下、悩ましいこともあった。
ある日のこと、市場で果物などを購入し、手押し車に買った果物を入れ帰路を歩きながら、大きな溜め息をつく。
「作った商品が好評で売れ行きが良いのは嬉しいけど、利益面を考えるとなぁ……」
「なんじゃ、大きな溜め息なんぞついて」
「ラッセルさん!」
背後から声をかけてきた好々爺は、白ヒゲを触りながら目を細める。
「利益面で何か問題でもあるのかい? セリナお嬢ちゃんの店は客入りも良いようじゃが?」
「実は……。お店で売っているケーキの価格設定を安価におさえたせいで、あんまり利益が大きくないんですよねぇ」
「そんなに安く設定したのか?」
「もちろん利益が出るように価格設定したんですが……。何しろ、原材料の小麦粉、卵、牛乳、砂糖に加えて、果物も安くないので」
「ふむ。利益率が悪いという訳じゃな」
「はい。そうなんです」
私の場合は魔法を駆使して一人でケーキを作っているし、火魔法を使ってケーキを焼いているから燃料代もかかっていない。人件費は最低限で節約できる部分は最大限に節約しているのに、利益が少ないというのは商売をやっている上で問題だろう。
現状は何とか回っているが、原材料の価格が高騰したらかなり危機的状況になるのは間違いない。先日も天候不良でイチジクの価格が高く、購入を見送ったことだってある。利益率が低いということは、原材料の高騰があると赤字に転換しかねないということでもある。実に恐ろしいことだ。
「そういうことなら、やはり利益率の高い商品を取り扱うのが一番なんじゃが……」