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「店長! アップルパイ残り少ないです~」
「大丈夫! ちょうど焼きあがった所よ!」
風魔法で素早く粗熱を取って、こんがりと焼き目のついた黄金色のアップルパイを店頭のショーケースに並べていく。すると出来立てのアップルパイが入ったのを見ていた客の目が光る。
「そのアップルパイ、四つちょうだい!」
「はい! ありがとうございます!」
並べたそばからアップルパイは飛ぶように売れていった。客からの注文に素早く対応する双子の姿を見ながら私は首をひねる。
「なんだか連休明け辺りから、妙にアップルパイの売れ行きが良いような気が……。何でかしら?」
「あら、知らないのかい? ここのアップルパイが美味しいってウワサになってるんだよ」
ひとり言を呟いたつもりが思いがけない返答に、驚きながら声がした方を見ればパティスリー開店前にお世話になった恰幅の良い肉屋の女将がいた。
「エマさん! お久しぶりです。開店前は広告の件とか色々お世話になって、お礼にうかがいたいと思っていたんですが……」
「あら、そんな改まって。ああいうのはお互い様だよ」
「本当に助かりました。エマさんがこの店の事をお客様に伝えて下さったおかげで、どれだけ救われたか……」
「あはは。セリナちゃんは大げさだねぇ」
身体をゆらして、ほがらかに笑うエマさんに私もつられて笑顔になる。
「それにしても、ウチのアップルパイがウワサになってるって言うのは、どういうことなんでしょう?」
「ああ。何でもノーラ孤児院の子供たちやシスターが絶賛して、それを聞いた人たちが興味を持ったみたいだよ」
「ノーラ孤児院って、もしかして……」
もしやと思い店舗営業が終わった後、ルルとララに尋ねれば双子はコクコクと首を縦に振った。
「はい! ノーラ孤児院は私たちが育ったところです!」
「やっぱり……。じゃあ、そこからアップルパイがウワサになってるってことは」
「セリナ様に持たせて頂いたアップルパイを子供たちに食べさせたら大好評だったので、みんなが口コミで他の人にも広めたんだと思います」
「そうだったのね」
軽い気持ちで双子に手土産としてアップルパイを持たせたのだが、思いがけない宣伝効果があって驚く。エマさんの時も思ったが口コミの威力というのは侮れない。
ルルとララの出身である孤児院から広まったあたり身内によるステマな気がしないでもないが、あくまで子供たちが正直な感想として広めてくれた結果なのだから、まぁ大丈夫だろう。