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 とにかく、この寒空の下で野外は良くないだろう。店の中に入ってもらうにしても、目が見えない、耳が聞こえないなら仕方ない。誘導すべく、彼の手に触れると氷のように冷たかった。


「早く、身体を温めないと……! ちょっと腕を私の肩に回してくださいね」


 青年の片腕を、自分の肩に回して強引に、引きずるように店の中に入れた。目のうつろな青年は私の行動に困惑している。


「店頭で死なれたら困るというわけか?」


「いいえ! あなたを死なせません!」


 耳は聞こえないと言っていたが、思わず答えた。ひとまず、店内の壁際に寄りかかるように座ってもらう。それと同時に、ひそかに火魔法で調理場の窯に火を入れ、火力を高めながら室内の温度を上げる。


 彼のくちびるは乾燥してヒビ割れているし、肌もカサカサという状態。衰弱している人間を回復魔法で何とかできないか考えたが回復魔法は基本的に、細胞の一つ一つを活性化させてケガを治癒させる物だ。


 見るからに水分が不足して、脱水症状を起こしているであろう雰囲気の人間に治癒魔法をかけるのは危険だと判断し、まずは水分を取らせるべきだろうと調理場に行く。


「水……。いや、あんなに身体が冷えて弱ってるんだから、冷たい物や生水は良くないわよね」


 一刻も早く、あの行き倒れ状態の人に水分を与えないといけない。そう思った私は氷魔法で大きめの氷塊を作って銅製ナベに入れ、それを火魔法で一気に熱する。高温の炎で熱された氷塊はすぐに溶けて水になり、あっという間に熱湯となって沸騰した。


「このままだと熱すぎるわね」


 大きめの銅製ボウルに氷魔法で複数の氷を作り、そこに鍋ごと入れて熱湯の温度を下げる。風魔法も併用して沸騰したお湯をほどよい温度にする。できあがった白湯を手早く陶器のカップにそそぐ。


 そして、壁にもたれながら床に座り込んでいる青年の元にかけより、念のためヤケドをしないようにカップの表面に息を吹きかけ冷ました後、白湯を彼の口元でカップをかたむけた。


「飲んでください!」


 私の意を察したようで、彼は瞳をうっすらと開けながら少しずつ白湯を飲んでくれた。すると白湯を飲んでいる内に、生気が失われていた瞳はじょじょに鋭気の光が宿っていく。


 不思議なことについ先ほどまで、おぼろげだった視線は瞳の中にあった、白いモヤが消え去ると同時に美しい色の虹彩が輝き、私をしっかりと見すえた。


「これは一体……」


「大丈夫ですか? 無理をしないで、ゆっくり飲んで下さい」


 私がそう呼びかければ銀髪犬耳の青年は、これ以上ない程に碧眼を見開く。


「聞こえる!」


「え? 耳が聞こえるようになったんですか?」

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