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 戸惑いながら、即座に否定したセリナを問い詰める気にはなれず引いたが、恐らく彼女は『聖女』なのだろう。俺が四方、手をつくしても解くことができなかった呪いをあっさり解いたことが何よりの証拠。


 だが、彼女自身が聖女であることを否定するのなら事実はどうあれ、それでいい。もし、彼女が聖女であると公言していれば、こんな街中で出会えることは無かっただろうし一生、言葉を交わす事も、顔をあわせることすら出来なかっただろう。



「セリナ……。君には命を救われた」


「え」


「恩を返したいんだ……。俺にできることはないか?」


「そんな……。私は飲み物を用意して、試作品のプリンを食べてもらっただけですから」


 大したことはしていないとセリナは困惑気味だが、そんなことはないと俺は首を横に振る。


「いや、君が拾ってくれなかったら、俺は間違いなく死んでいた」


「ヴォルフさん……」


「俺にできることなら、何でも言ってくれ」


 真剣な表情でセリナに言えば、彼女は腕を組んで少し考え込む。


「うーん。じゃあ、たまにウチの店で買い物してほしいです」


「……それだけか?」


「ええ。買い物して、売り上げに貢献してくれたら、このパティスリーの店長として、すごく嬉しいですから!」


「そうか……。わかった。じゃあ今後、菓子類を購入するときは必ず、この店を利用する」



 こうして俺は冒険に出る前に、焼き菓子を購入する際は『パティスリー・セリナ』の商品を必ず買い求めるようになった。


 もっとも、焼き菓子ていどでは店の売り上げに大して貢献しないし、俺の気が済まないので、冒険者としての仕事が一段落した際にはセリナの店に顔を出して、彼女に何かと手みやげを持っていくようになった。



 そして、今回も一週間ほどで仕事の依頼をこなした俺は、彼女の店へ向かい『パティスリー・セリナ』の裏口からセリナに声をかける。



「セリナ」


「ヴォルフさん! 戻って来たんですね!」


「ああ」


「予定より早かったんじゃないですか?」


「今回の依頼は案外、楽でな。早々にカタがついたんだ」


「そうなんですね。お疲れさまです」


「ところで……。さっき街に戻る前、鳥を狩ったんだ。良かったらと思って持ってきたんだが、食うか?」


 すでに解体済みの鳥肉が入った袋を見せれば、セリナは大きな瞳を輝かせた。


「わぁ! いいんですか?」


「ああ。もちろんだ」



 セリナは嬉しそうに鳥肉を受け取ってくれた。ちなみに狼の男は、好意を持っている異性に仕留めたばかりの獲物をプレゼントするという求愛行動を行うのだが彼女はまだ、その事実を知らないようだ。

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