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 立ち上がる時、一瞬だけフラついたが足取りは自分で驚くほどしっかりしていた。身体も軽い。ついさっきまで嗅覚、聴覚、痛覚が完全に失われ、視覚もほぼ奪われていた状態で、死にかけていたのが信じられない。


「足元がフラつくなら、まだ無理はできませんね……。どこか痛むところはありますか?」


「いや、痛みはない」


「そうですか……。回復魔法はかけたけど、しばらくは、ゆっくりした方がいいでしょうね」


「ああ、そうだな」


「実はもうすぐ開店の時間なんです」


「そうか、すっかり世話になってしまったな……。すまない、すぐに出て」


 言いながら椅子から立ち上がろうとすると、少女は血相を変えて制止した。


「ダメですっ!」


「え?」


「まだ、無理はできないと言ったじゃないですか!」


「しかし、これ以上の迷惑をかける訳には……」


「せっかく回復したのに、また店先で倒れたら、そっちの方が迷惑です!」


「…………」


 断言する少女の剣幕に押され、言葉を失っていると眼前の少女は、やや口角を上げた。


「開店までに、もう少しケーキのストックを増やしたいので、私はちょっと調理場で作業をします。あなたは……。お名前を聞いてよろしいですか?」


「ヴォルフだ」


「私はセリナと申します。ヴォルフさん、ここで経口補水液を飲みながら、ゆっくり座っていて下さい」


「……わかった」


「調理場のドアを、少しだけ開けておきますから……。もし急に、どこか痛むようでしたら呼んでください」


「ああ」


 床から立ち上がる瞬間だけはフラついたが、実はもう普通に歩ける自信がある。それでも彼女の言う通り、大人しくしようと思ったのは彼女に興味がわいたからだ。


 座っている椅子から音もたてずに立ち上がり、気配を消しつつ僅かに開いているドアの隙間から、ひそかに彼女が調理場で作業する姿をのぞき見る。視力を失いかけの頃なら、全く分からないだろうが、視力が完全に戻った今なら小さな隙間からでも中の様子がうかがえた。


 手際よく、卵を割りながら銅製のボウルに卵を入れ、一定の量を入れ終わった彼女は、氷魔法で大きめのボウルに氷を入れるとその中に一回り小さいボウルを入れた。


「卵を冷やしているのか……」


 そう思っていたら、軽く手をかざすと風魔法で卵を泡立て始めた。回復魔法だけではなく、氷魔法と風魔法まで使えるのかと驚いていれば、彼女は火魔法でかまどに炎を起こした。

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