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私の婚約者について話を聞くことが出来ないと分かり、ガッカリするローザに笑いかけながら、なんとか窮地を乗り越えたと大きく安堵の息をついた。
その後、王立学園の授業ではこの世界の近隣諸国の地理と歴史についても学んだ。私の住む、金獅子国の北には黒竜帝国があり、黒竜が帝王の国があるとか。西には虎の獣人が治める白虎王国と、羊毛産業が盛んな銀羊小国。
東には蒼狼公国、南には紅鳥皇国という獣人ならぬ、鳥人が治める国があることなどや、それらの周辺諸国の歴史についてなど色々な事を学んだ。
王立学園に入学して以来、細心の注意を払って必要以上に魔法を使わず、魔法の授業でも決してクラス平均以上の魔力を見せないという努力のかいあって、このまま順調にいけば『聖女』疑惑をかけられることなく学園を卒業できるという所まで来た。
たまにフルオライト伯爵家のフローラが、私のことをゴミでも見るかのような目で見ることもあったり、平均的な魔法を使っていると鼻で笑われてると感じることもあったが、あまり気にしないように極力、関わらないように過ごしている。
元々、身分と魔力を重視する彼女は、平凡な魔力しか持たない下級貴族である者。つまり、私やローザとは積極的に関わりたいとは思っていないようで、そこは不幸中の幸いだった。
そんな折、学園の休み時間にすっかり親友となったクオーツ男爵家のローザと共に、自宅でメイドが作ってくれた固い焼き菓子をつまみながら話をする。
それにしても、こちらの世界のお菓子を食べるたびに、前世で食べていた柔らかい生洋菓子が恋しくなるなぁ。などと考えていたら、ローザがアクアマリン色の瞳に影を落として、ため息をついた。
「ハァ」
「どうしたのローザ、ため息なんかついちゃって。この焼き菓子、口に合わない?」
「ううん。そんなことない。美味しいわ」
「じゃあ、何か心配事でもあるの?」
「うん……。実はお父さまが、クオーツ男爵家の領地に行くんだけど」
「ああ、そういう時期なのねぇ」
我がセレニテス家も農作物の収穫時期などは、子爵家当主である父が自ら遠方の領地へ行く。他の家もそうなのだろうと納得しているとローザは憂い気に肩を落とす。
「一人で遠方の領地に行くって言ってるから心配で……。ウチは母親が亡くなって、父と私と弟の三人家族だから……。もしお父さまに何かあったらって考えると」